くみ泡 第八話「RENDEZVOUS 」その12
哲也:
これは妻の優樹子の研究テーマだが「ヒト」が「人」になりえるのは自分で感じ、考え、それを覚えていける事、人は人に成っていくモノであると思っている。
幸喜:
意識?自我ですか?
哲也:
私達はこの梨音くんのスペア…私達は「素体」と呼んでいるが、この素体の脳神経には何も記憶させないよういしている。
内臓さえ外部よりアルティメイドチップを通じて信号をおくり制御させている。
よって自然の胎児には存在する意識は生まれていない。
幸喜:
文字通り真っ新(まっさら)ということですか?
哲也:
その通りだ。
哲也:
梨音くんが最終的に危篤になり延命処置が開始された同時に現在の梨音くんの特殊なチップ経由でこの素体に全ての意識を構成する脳要素や神経系の記憶などの転送が開始される。
転送が終了次第梨音くんの元の身体は生命活動を停止する。 そしてこの素体が梨音くんとして活動を開始する。
哲也:
意識転送…妻の優樹子が研究している技術であるが電子的な脳意識のコピーともいえるな。まず成功するか? そしてたとえ成功しても転送された結果物が梨音くんであるかどうか? それは誰にもわからない。梨音くんとまったく同じ記憶や感情をもっていたとしてもな。 それでもキミの御父上はそれに賭けた。 まあわたしも、優樹子もフランソア・フィッツジェルトもな。
それでキミはそうなった梨音くんでも今まで通り兄として兄妹でいてくれるかな?
幸喜:
当然です! どんな梨音になっても梨音は俺のたった一人の妹です!
哲也:
そうか…なら私達も全力を尽くそう。
梨音:
う…ん…
幸喜:
? 梨音!
梨音:
お兄ちゃん…あれ…? 梨音…死んだんじゃなかったの?
幸喜:
助かったんだよ…(涙) 櫻糀先生達やフィッツジェラルド先生が助けてくれたんだ。
梨音:
そうなんだ…あれ? お外が雪?
幸喜:
うんもう冬だよ。梨音は沢山寝てたんだよ…
梨音:
そっか…先生たちは? それにフランソアお姉さん
幸喜:
先生たちはお忙しいからね、梨音がもう大丈夫だとなったら外国に行ってしまった。フランソアちゃんもね。でも梨音が起きた時の為にってこの本をフランソアちゃんから預かってる。
梨音:
これは梨音が好きだったロバート・ブラウニングの「ピッパが通る」だ! この本難しいけどフランソアお姉さんが詳しく説明してくれたからわかるようになったんだよ! 嬉しい…またお姉さん達に会えるかな?
幸喜:
うんきっと会えるよ…その為にもがんばって元気にならなくちゃ。
梨音:
うん! お兄ちゃんがいれば梨音元気になるよ…がんばる!
その13へつづく