えんぱいあな日々(本編) 第五百八十六話 ignited その3

 
すみれ:
Forestの永遠室長より提供されたタルタロス製作当時のこのアーキテクト暗号スフィアを使いタルタロス人工衛星群を凛空様の衛星メルクリウスのラボで解析した結果…

すみれ:
地上のタルタロス。橋本研究所で製作され今まで死亡したバイオメイド全ての固体別の遺伝子情報、追加身体ユニット情報、ニューロチップ設計情報…そして死亡時ゴーストスフィアと関連付属情報が圧縮記録されています。当然この機能は全ての橋本研究所製のバイオメイドに搭載されている機能だと思われます。

梨音:
生涯の経験記憶だけじゃくてゴーストその物? 意識構造体が?

デメテル:
これは困ったことになったのじゃ‥‥

桃子:
ただのバイオメイドのチップなのにサテライト通信機能が標準装備なのはそういう事か…記憶転送は梨々衣ちゃんに経験を積ませるものではなく固体情報を蓄積させる為だったと…使い捨てのイノチでは無かったと…悍(おぞ)ましい事を考えるわね…。

花恋:
意味が全然わかりません

ルゥナ:
ルゥナもです桃子先生ルゥナ達に解るように教えて下さい。

桃子:
簡単に言うと橋本製のバイオメイドは死なないってこと。

花恋:
えっ? 死なない? 不死?

桃子:
死なないのではないわね、何回も死ねるという方が正しい。 橋本製バイオメイドはタルタロス内の全自動バイオメイドプラントで全て製作されているのは知ってるわよね?

花恋:
はい

桃子:
そして先ほどのウーラノス、すみれちゃんの説明が正しいなら、橋本製のバイオメイドは死ぬとそれまでの全ての記憶というより意識を転送され保存され命令一つでそのプラントで以前の記憶や感情、実行している命令などをもったまま、同じ容姿で復活して出荷されるということ。全自動でね

ルゥナ:
えっ! 死ぬ寸前の経験や記憶をもって?

花恋:
どんなに辛い思いをして死んでも…死ねないって事ですか? 

桃子:
そして橋本製バイオメイドは殆どが兵器だから激しい戦闘を行い壮絶に死ねば死ぬだけ経験を積み兵器としての質は上がる。

ルゥナ:
兵器の質?

桃子:
花恋ちゃんならこの意味わかるわよね?

花恋:
次はどうやったら死なないか? ソレを思考錯誤するということはいかに効率良く敵を殺した上で死ねるか? その模索になる。自分の命の残段数が無限での戦闘技術強化。 死も恐れない高性能な戦闘マシーンほど戦場ではやっかいなモノは無い。それを使い捨てに無尽蔵に戦線に投入できるなら…マズイですね

ルゥナ:
メイドはルゥナ達は兵器じゃない! 使い捨ての道具じゃない! ココロが…

桃子:
こんな事を考えたり作ったりする人達はメイドはおろか自分以外の他人は全部、使い捨ての弾丸と同じとしか思って無いわよ。 そういう人沢山出会って来た。 ルゥナちゃん達をとらえていたあのオトコとかこないだ鈴音に切られたあのヤツとか…反吐がでるくらい地上にはそういう連中が無数にはびこっている。逆にそう思って無い人の方が少ないくらい。

花恋:
そうですね。花恋も沢山そういう連中を反吐が出るくらい引き金を引き弾丸で始末してきました。

ルシフェル:
現在シリアルナンバー13999で生産は止まっていて再生産は稼働してないけどいつ始まるか解らない。 今なら私がベーリング海に展開している戦略原潜3つからのリフレクテクターフィールド・キャンセラー搭載型の戦略核弾頭弾道ミサイルで集中飽和攻撃をかければ一発でもフィールドを突破できれば

梨音:
るーお姉ちゃん所有の原潜からタルタロスに戦略核攻撃? 

花恋:
るーお姉ちゃんやっぱりアーマーメイドの対抗手段を作って実戦配備してるんですね。まあ花恋でも思いつくくらい事だし。

ニケ:
待ってください! タルタロスには橋本研究所とは無関係の多くのバイオメイドも生造されているし多くのバイオメイドのスタッフもいます!

梨音:
それにあんな場所に戦略核攻撃したらどんだけの放射性被害がでるか!

梨々衣:
者ども静まれ! まだウーラノス殿の話は終っておぬぞ!

梨音、ルシフェル、花恋:
ひぐっ!

ニケ:
あれニケの杖が?

梨々衣:
スマンかった。 ウーラノス殿話の続きを。

すみれ:
はい。

梨々衣:
ニケ殿悪いが議会開催中は借りておくぞ。終わったら返す。

ニケ:
いやもともとそちらのモノをお借りしているだけなので…。

テミス:
これが勝利の杖の本来の形の支配の王笏。神々の女王の証

すみれ:
先ほど各々が危惧しておった再生産はすでに劣化版チップというカタチで始まっていて11ロット目から生産されて劣化版チップを積んだバイオメイドは過去に一度死に、二度目のメイドとしての人生を積んだことが確認されていて、現在保存されている中にはすでに三回死を迎えている意識スフィアも存在します。
しかし現在ではある日を境に再生産は停止しております。

梨々衣:
原因は見つかりましたの?

すみれ:
ある意識スフィアがタルタロスの意識格納領域から制御部へ干渉して再生産を止めています。

梨々衣:
そのシリアルナンバーは?判明いたしましたの?

すみれ:
先ほどやっと判明いたしました。


すみれ:
シリアルナンバー12130。

梨々衣:
あっ‥

すみれ:
白山市の大規模攻撃の前に調査部をおびき出し殲滅するために結成された特別攻撃先遣隊。その中で気化爆弾の起爆スイッチを押さないまま機動装甲車に轢かれる事で仲間を敵である私達に託して救うのはもとより貴女が最後の記憶を手繰り、他の仲間を私達に救わせるために出来るだけ助ける為に梨々衣経由で衛星ヘーラーの意識増幅部にアクセス意識信号発信強化を行い座標や状況などの記憶を鮮明に貴女に伝えた。

すみれ:
そして彼女は強化された意識信号を使い、タルタロスの意識格納領域の上部表層部に留まり、そこから再生産信号を止めるために今でも干渉し続けています。
仲間と自分が経験する苦しんで死ぬだけの生が繰り返す地獄の連鎖を止める為に。

彼女は身体もチップも何もない、ただの意識スフィアになっても。 バックアップする衛星もなく、誰もその戦いを知りえなくても。 終わりが見えないただ一人でその絶望的な戦いをやっています。

彼女は死んだ仲間が苦しむことを防ぐために今この瞬間も彼女は戦いを続けているのです。

梨々衣:
そんな事って…

ニケ:
(涙)



その4 へつづく