えんぱいあな日々(本編) 第五百八十六話 ignited 前編 その17
すみれ:
いくら元帥閣下のオジサンとエステル議長のお願いとはいえ、それは出来かねます。
エステル:
どうしても橋本優奈さんの身柄をコチラへ引き渡しては下さいませんか?
源三:
すみれちゃんの事だ、自分の専属メイドというだけで拒否しているとは思えない。オジサン達に理由を説明してくれるかな?
すみれ:
はい。
すみれ:
優奈はこちらではバイオメイドですが、エンパイアクラブというよりこのすみれ個人がスプロール連合より保護と身柄の保証を委任されお預かりしている大切な電脳意識体であります。それを他の管理者へ引き渡す事は出来かねます。
もし保護者のすみれが他者へ身柄を引き渡すような事を行った場合、オリュンポスGRIDはおろかスプロール連合の信用と信頼を決定的に失う事態になります。
ただでさえ橋本研究所やスカジエットメディカル、ブライアンサイエンスが絡んだヴィクトリア女史率いる旧議会派勢力が行っている電脳意識体の尊厳を無視した行為はスプロール全体に衝撃を与えており、その中で優奈の身を犠牲して多くの電脳意識体を救った行為は英雄的な行為だとスプロール内に広く評判になっております。
すみれ:
そして現在、地上の現生人類が行っているバイオメイドへの熾烈極まりない蛮行に対しスプロール全体で一致団結して地上に住まう下劣な現生人類を淘汰すべしという意見が高まっている中、どうにか電脳意識体と現生人類とそれから派生したアポリロイド、オーバーメイドも含めて共存する道を模索しようとそのような世論と戦い奮闘してるのがオリュンポスGRIDを中心とした穏健派です。
その穏健派に対し信用を失えば、スプロール連合内で地上現生人類淘汰派が多数を占める事態になり、スプロールと地上との全面戦争に発展することになるとすみれは考えますが、それでもエステル議長はそれをお望みのなのですか?
エステル:
そうとはわたくしは思っておりませんが、あるいみ9000固体弱の不死者を管理するトリガーを持つ優奈さんを普通のメイドや大使館員として生活させるのは‥‥それにその事実が露見したときの世論への影響が…
哲也:
おいすみれ、そんなにエステルちゃんをイジメルな。可愛そうだろ?
源三:
しかしなんだ不死なる軍隊というのは? ドラキュラ伝説かなんかか? オレ達は今度は十字架と杭と銀の弾丸で武装でもしないとダメか?
哲也:
ドラキュラ、アンデットか当たらずと雖も遠からずだな。
源三:
哲也、オマエも死んだと思ったらひょっこり生き返って来やがって、優樹子やフランソア
の件もあったから、三度目だから呆れるが驚きもせんがな
優樹子:
うっ…
哲也:
おい源三、理解して無いな? わたしはすでに死んでいる。
源三:
随分元気そうな死者もいるもんだなおい。
里緒奈:
まさにロンドンは燃えているか? ヘルシング
美優:
なんだそれ?
里緒奈:
観ます?貸しますよ。
フランソア:
ねえそこで微笑んでいる、元ご主人様の瑠莉さんエステルと紅葉パパが困ってるんだから助けなさないよ
詩織:
そうですよ
紅葉:
そもそもが不死の軍隊というのがわたくしには理解ができないのですが
エステル:
わたくしは事象としてでしか把握してませんが、現在アポリロイドやバイオメイド、その管理者としてのアルティメイドの認知を広める運動をしておりますが予想通りかなりの拒絶反応があります。そこにもしこの事が一般社会に広まると恐怖によりパニックになることが予想できますわ。
瑠莉:
あぁスマン、私とフランソアや電脳神達以外で一番「ヒトとはなにか」を理解をしているのが里緒菜っていうのが面白くてね。 人は理解出来ないものに恐怖を感じる。そしてそれが戦争の原因の一つにもなる。
里緒奈:
里緒奈が?
瑠莉:
里緒奈、キミはここにいるフランソアとヴェルそしてDrフィッツジェラルドにココロとは何か? ついて教わったよね?(注)いまなら、キミは「ココロがある状態」=「意識」がある存在を「ヒト」であると理解しているはずだ。
里緒奈:
はいそうですね、それがヒトです。
瑠莉:
では里緒菜、ココロ、まあ意識でも良いがその中心になっているモノは何? まあ生きるという事でも良い生きてないと意識は生まれないしね。
注:以下のエピソードの事
里緒奈:
えっこんな偉い先生がいる場所でそんな質問を里緒菜に…元ご主人様どれだけ鬼畜外道なんですか!
美優:
先生としての姉さんはもともと鬼畜外道だ。
里緒奈:
そうでした。もともとでした!
美優:
しかしこの質問は興味深い。里緒菜としての見解、いや意見を私も聞きたいな
里緒奈:
美優さんが言うなら、あくまで里緒菜の意見ですよ?
里緒奈:
まずココロを発現させる、意識マトリクス、意識の格子は多くの記憶につながる点が繋がって構成されています。
この点から経験した体験記憶、その時の感情記憶、動物としての原初記憶、生物的な本能である基本行動記憶と感情のセット、その後の結果などが複雑に参照されるようになっていて、それが参照されることでリアルタイムで変動する波のようにこのマトリスクを揺らしています。
この揺れる時に発生させるものが気持ち、であり、嬉しかったり、楽しかったりしたら、プラス方向へ上へ揺れ、悲しかったり、寂しかったりしたら下に波が揺れます。
しかし揺れが大きくなりすぎると、バランスを崩して制御がしずらく、さっきように点から参照する事がしずらくなります。
このような常に動いている立体の複雑な格子がココロ=意識であり、それをもち、複雑な思考ができるものを里緒菜は「ヒト」であると思います。
紅葉:
全然わかりませんわ、本当に里緒奈ですの?
詩織:
詩織の知らない里緒菜がいる…
エステル:
難しいですわね…申し訳ありませんが勉強不足でわたくしには理解する為の基礎的な知識が欠けていと思います。
フランソア:
里緒菜すごい! まさにそれが「ココロ」を作りだす仕組みと動作した結果の揺れが気持ちや感情でありそれその物が「ココロ」! その揺れの動きを呼吸に見立ててプラトンのイデア論ではプシュケーと呼んだ!
エステル:
あっ、プシュケー、イデア論…そうですわね本来は見えないモノ、概念をわたくし達は形象化して「脳空間」に「写し見て」…こちらの現実とは影で…なるほど、それを作り出す構造体…機能のしくみ…それを電子化したものが「電脳」ならば…
瑠莉:
さすが現EmpireClubForestのメイド長。直に意識のマトリクスを見て触れて来た里緒菜ならの分析だ。 それを私達は「Consciousness Structur=意識構造体」と呼んでいる。
最後のは「ヒト」でも「人類」でもあるが、「人間」となると人によって様々な事に今回の問題の本質がある。
「人間」とは「ヒト」が認知てきる範囲の「ヒト」が創り出す関係性で成り立つ世界の中の存在。
地上の現生人類も、スプロール内に存在しここにもいる電脳意識体もお互いを「同じ人間」としてみれるのか? が共存できるポイントとなる。
その18 へつづく