第五百九十八話 アヴァロンの王冠 前編 その6
アナエル:
ご主人様早く~♪
花恋:
うんすぐ行くから! しかしスゴイ風景だな…
アナエル:
ばたばたばたばた! 水トリ! あははっ!
アナエル:
えいっ! あははっ! 楽しい!
アナエル:
ご主人様? えっと…大丈夫ですか? もしかして私だけで楽しんでた?
花恋:
いや! 違うの…その…
アナエル:
もしかしなくてもエリシアお姉ちゃんがいないから‥‥寂しくなちゃった?
クリスお姉さまもここにはいないし…
花恋:
いや違うから‥‥逆に今の花恋の顔とかエリシアとかクリスお姉さまに見られたら…どんな酷い事になるか…
アナエル:
酷い事?
花恋:
正直に言うね。アナエル…キミに見とれてたの。 こんな事、物心ついてから初めてで…戸惑ってる
アナエル:
ピヨっ! ご主人様が私に見とれてた?
花恋:
そう…今、抱きしめようとする衝動を必死で抑えている…
アナエル:
抱きしめる?!
アナエル:
ぴよぉおおおおおっ!(そのままひっくり返るアナエル)
ざばーん!
花恋:
アナエルっ!
花恋:
大丈夫?
アナエル:
はい。怖かったです…水は怖くないですが私泳げないので。
花恋:
そうだよねぴよ吉の時もそうだったし。
アナエル:
このカラダになったので今度は泳げるように‥‥
アナエル:
ご主人様に抱きしめられている‥‥はう…意識が…ぴよ…
花恋:
あっ! ゴメンっ! おいしっかりしろ力抜いたらまた水の中に!
アナエル:
ぴ…よ‥‥
花恋:
おい! 仕方ない! えい!
花恋:
ぴよ吉…いやアナエル。イズミル(注)での夜の事、覚えている?
アナエル:
はい。部隊の後退命令に伴いご主人様と私だけが敵中の真っただ中に取り残されてしまって…雨が降ってて…
花恋:
寒くて…身動きも取れずにキミの事をこうやってずっと抱きしめて…とても心細くて…もう駄目だと思ったら、キミが「諦めるな」って…ずっと励ましてくれて…
アナエル:
翌朝、クリスお姉さまを中心とした小隊が敵中突破して救出してくれて助かりましたね。
花恋:
だから抱きしめるなんか…今更でしょ?
アナエル:
そうですね…
注:イズミル
エーゲ海に面するトルコ西部の都市。イズミールとも表記される。古くはズミュルナもしくはスミュルナ(古代ギリシア語: Σμύρνα) と呼ばれた。イスタンブール、アンカラに次ぐトルコ第3の都市である。
その7 へ続く