第三話 moving soul その10

 
悠名:
由美恵…何か悩み? 難しい顔してる…

由美恵:
いいえ、そういうわけではございませんが……

悠名:
悠名に丁寧語イラナイ・・・

悠名
もしかして、みんなと離れるのが不安? それとも寂しい?

由美恵
いえ、そんなことはないんです。ただ、みんなはホテルの宿舎なのに、私だけ先にクラブに住まわせてもらって、そこから通うことになって…ちょっと特別扱いみたいで、みんなに悪いかなって思ってしまって…。

グレイス
そっか、それでちょっと元気なかったんだね♪

悠名
でも、どうして気にするの? 由美恵は來奈お嬢様の初めての専属メイドなんだから、それくらい普通じゃない? むしろ、もっと胸を張っていいと思うよ?

由美恵
どういうこと? 咲夜マネージャーや悠名さんもご主人様のメイドですし、ノーラメイド長もいらっしゃるでしょ?

悠名
悠名に「さん」付けはダメ! 絶対! それと、丁寧語もナシ! わかった?

由美恵
えっ…うん、わかった、悠名。 それで、どういうことなの? 悠名が言ってる意味がちょっと…うまく飲み込めないんだけど。

悠名
悠名は、咲夜の専属侍従メイドで、來奈お嬢様の補佐メイド。でもこれは、悠名がアーマーメイド「ポイベー」のメインバイオプロセッサだからで、ナビゲーターの來奈お嬢様を「補佐」するために作られた「メイド」って意味。
だから、普通のメイドさんとはちょっと違うの。

それに、美月咲夜は來奈お嬢様の補佐人だから、執事の立場であって、來奈お嬢様のメイドではないんだよね。

クラブとしてはノーラたちがいるけど、彼女たちはエンパイアクラブのメイドであって、來奈お嬢様個人のメイドじゃない。

つまり、來奈お嬢様が直接「この子が自分のメイド」って決めた相手は、今までいなかったの。だから由美恵が初めての専属メイドになるんだよ。 わかった?

由美恵
ちょ、ちょっと待って…頭が混乱してきた…。

悠名
悠名、説明下手…。咲夜ぁ~、由美恵に説明して~!

來奈:
あの娘、前提知識や秘匿情報とか一切説明なしで、いきなりぶっちゃけたんですが…。咲夜さん、お宅のメイド教育、どうなってるんですか?

咲夜:
いや、お宅って…悠名もお嬢様の家にいたんですから、お嬢様も同罪ですよ!

グレイス:
あの、お二人とも…悠名の指導責任云々の前に、由美恵が困惑を通り越してパニック起こしそうだから、説明を先にしてあげたら?

由美恵
咲夜さんは、本当はメイドじゃなくて、本名と身分は事故に遭う前は美月咲夜で、月空家の補佐家のご当主。來奈ご主人様の後見人だったと? それで、事故前の咲夜ご当主のメイド…というか恋人が悠名。でも、その事故の関係で今はメイドの姿になっている…。

それに、來奈ご主人様は今まで一度も個人的にメイドをお迎えしたことがなかった。でも今回、初めて月空家として、私を正式なメイドとして迎えてくださるってこと…。

グレイス
そういうこと。だから由美恵が月空家の筆頭メイドになるの。そして、その初めての認証式を、この私が執り行うわけよ。

由美恵
私…そんな大それたことを…何も知らずにお願いしちゃったの…?

グレイス
でも、來奈はそれを受け入れて、公私ともにパートナーの咲夜もそれを承認したんだから、心配しなくても大丈夫よ。

由美恵
わ…私が…ご主人様に一目惚れしたばっかりに…ご主人様と咲夜様に大変なご迷惑をかけてしまって…!

悠名
大丈夫、來奈お嬢様も咲夜も「そう決めた」ことにはちゃんと責任を持つから! この悠名が保証してあげる。簡単な気持ちで由美恵の申し出を受け入れたりなんて、絶対してないと思うよ。
來奈お嬢様も咲夜も、一生由美恵のことを面倒みるつもりで受けたと思う! まあ、來奈お嬢様は当然、一目見て、由美恵が咲夜の好みだし…大丈夫!

由美恵
大丈夫じゃないですよ! それに私が月空家の筆頭メイド!? 絶対無理ですって!

悠名
管理するエンパイアクラブのシェルムーンは、ノーラに任せてあるし、二個目のクラブや、來奈お嬢様が今後個人的にメイドを増やさない限り、メイド長をすることもないよ。
カナダの管理人しかいない月空家の本屋敷もあるけど、そこは由美恵がメイド長に…?

由美恵
メイド長!! ムリ! ムリです!!

グレイス
完全にパニック状態だね。でも、ここまできて認証式の中止はできないよ。立会人でエステル議長や鹿苑寺オーナーも参列するし。

由美恵
ひぃぎぃ!!

咲夜:
ショック受けてますね…

來奈
私ってそんなに重い女なのかな?

グレイス
はい、超重量級に重いと思いますよ。体重は軽そうですけど。

來奈
由美恵はそんなに私のメイドになるのが嫌なの? 私、一目見て由美恵のことを自分のメイドにしたいって…好きだって思ったのに…うっ…

由美恵
ご主人様! そんなこと思ってません! 私もご主人様のことを心の底からお慕いしております! ただ、少し驚いてしまって…本当に申し訳ありません!

來奈
じゃあ、由美恵は私の専属メイドになることに、気持ちの揺らぎはないのね?

由美恵
はい、当然です。

來奈
うん、嬉しいわ、由美恵。

グレイス
うわ…このお嬢様、思ったよりあざといわね…

來奈
そこ黙って。

ソニア:
まあ、ご主人様の立場はたしかに重いわな…。

あ~、皆さま、もうすぐ到着しますよ~。



その11 へ続く