第三話 moving soul その13

 
ブラックハウンド兵士:
……ひどい。民間人の避難が完了していないのに、対アーマーメイド用のFAEBを使うなんて……。

由美恵:
美也子、まだ敵の生存者がいるかもしれない。警戒を怠らないで。

注:FAEB=Fuel-Air Explosive Bomb=燃料気化爆弾

SE:
ガシャッ!(ヘッドマウントディスプレイを上にはね上げる)

仁香:
民間人がまだいるのに、焼き払うなんて……政府軍は一体何を考えているの!?

(モニターを確認しながら)
メインモニター、サブモニターともにブラックアウト。駆動系、すべて応答なし。
電脳通信も軍用無線も、ジャミングで完全に遮断されてる……。

……機体を捨てて脱出、支援部隊と合流するしかないか。

(周囲の状況を確認しながら)
外気温と大気の状態は……よし、大丈夫。

仁香:
敵に占領された地域の住民は、自国民だろうと関係ないってこと?

……そんなの、許せない……。

由美恵:
美也子! 11時方向のビルの陰に、我が軍のアーマーメイドを確認!
動作不能のようだけど、アッパーハッチにパイロットの姿あり……生きてる! 急いで向かって!

美也子:
イエス、マム!

SE:
うぃぃん♪

仁香:
あれは我が軍の特化隊の知能戦車?

拡声器:
おいそこのパイロット自力で降りてこれる? こちらへ来れる?

仁香:
はい! 降りられます! すぐに向かいます!

仁香:
私はアーマーメイド第二小隊所属、橋本由美恵中尉です。

由美恵:
こちら、第一特化隊第一小隊所属、橋本由美恵大尉。そして、こっちは橋本美也子少尉。

美也子:
中尉、よろしくお願いします!

仁香:
部隊の他のメンバーは?

由美恵:
たぶん、あの爆撃に巻き込まれて全滅したわ。私たちはたまたま近くのクレーターに飛び込んで助かったの。そちらは?

仁香:
こちらは後方支援で砲撃任務についていたので、なんとか無事でしたが……機体はもう限界ですね。

美也子:
こっちの機体もガタがきてるので、このまま戦闘は無理です。隊長、生存者の捜索はどうします?

仁香:
この先は特殊気化爆弾の影響で、市民や歩兵の生存はほぼ絶望的でしょう。アーマーメイドでも焼け焦げているはず……。

由美恵:
一度、スエズ要塞へ撤退しましょう。

仁香:
この戦いの後、エジプト政府軍は壊滅した。しかし、エジプト政府の要請を受けた欧州軍が参戦し、戦局はさらに混迷を極めた。敵側も知能戦車を投入し、加えてエンパイアクラブ・ミリタリアのメイド部隊の中でも最強と名高い特務隊が前線に現れるようになり、我が軍は次第に劣勢へと追い込まれていった。

そんな中、再編された由美恵たち特化隊と、私たちアーマーメイド部隊は共に善戦し続けた。しかし、ある作戦において、由美恵たち特化隊は時間を稼ぐために前線へと突出し、結果として敵の猛攻を受け壊滅。

そして——
彼女は作戦行動中、行方不明と処理された。

マーニー:
…仁香、ケチャップ…大丈夫?

悠名:
仁香ぁ~、仁香ぁ~! 由美恵のことが心配なのは分かるけど、もうちょっとで休憩時間だから、しっかりして! ソフィアの診断だと、その頃には意識が回復するって言ってたし!

仁香:
…えっ? ケチャップ?

パリーヤ:
4番ソファ、テキーラサンライズ1つお願い!

マーニー:
うん、4番ソファね! テキーラサンライズ、すぐ用意するよ。

悠名:
もう~、仁香が「ケチャップで文字書きたい」って言うから任せたのに、ぼーっとしてるし!

仁香:
ごめん、ごめん! すぐに書くね!

マーニー:
書き終わったら、オムライスとスパゲッティ、一番テーブルのお客様に悠名と一緒に持っていってね。

仁香:
イエス、マム!

悠名:
軍隊用語はサロンでは禁止!!

仁香:
ご、ごめん… うん、わかった。

仁香:
ハートでいいかな…? そっと…

悠名:
そっと、そっと~♪ 教えた通り、やさしく~♪

仁香(モノローグ):
(私は今日から、戦うだけじゃなくて… 普通のメイドとしての一歩を踏み出したんだから。だから、今は…自分の意思で、ご主人様に喜んでもらうために、精一杯がんばりたい…!)


その14 へ続く