第三話 moving soul その14

 
由美恵:
うぅ…ん…

グレイス:
目を覚ましましたね。

來奈:
由美恵、おはよう。

由美恵:
ご主人様…おはようございます… 私、夢を見ていました…

來奈:
どんな夢?

由美恵:
仁香に初めて会った時の夢です… あれは、過去の記憶…

由美恵:
なぜ…ご主人様は、あんな強力な量産型アーマーメイドを作って戦場に送り込んだのですか? 元ご主人様のセリア様の邪魔をするつもりですか? 何が目的なんですか?

來奈:
それは、由美恵が思っている通りだと思うわよ。
私は、あなたの元ご主人様…セリア・ヴィクトリア女史が進めている《プロジェクト・フォルトゥーナ》を止めたいの。

由美恵:
やっぱり、そうなんですね…。
そんなことを考える人だから、もっと怖い人だと思っていたのに…こんなに優しい人だったなんて…。
そうじゃなかったら…私は…あなたのことを殺せたのに…。
気づいたら…私は貴女の僕(メイド)になってしまっていた…。
こんなの…残酷です…。

來奈:
そうね…残酷ね…。

由美恵は來奈の手をそっと握る

由美恵:
……ご主人様……どうして……
どうして、あの人の道を遮るようなことを……
なのに……どうして、こんなにも優しいんですか……
私……あなたを殺せたはずなのに……
なのに……どうして、こんな……胸が苦しい……

來奈
……ありがとう、由美恵。
もう何も考えなくていいわ。
今は、ゆっくり休んで――私のそばで。

由美恵:
‥‥…はい…

來奈:(電脳通信はグレイスとだけ)
グレイス…

グレイス:
一つだけ、確認させてください。
この件は、由美恵を保護した瑠莉閣下と詩織さんが すでに承知している という認識で間違いないのですね?

來奈:
ええ。閣下も、詩織さんも知っているわ。だから――

グレイス:
……了解しました。
この件について、私は 何も聞かなかったことにします。
メイドの名誉に賭けて、誓います。

來奈:
……ありがとう、グレイス。

由美恵:
……あれ? 私……? ご主人様……?

來奈:
おはよう、由美恵。やっと目を覚ましたのね。

由美恵:
えっ……? え、どうして……私、ご主人様の膝枕……?

グレイス:
由美恵、大丈夫? 気分は? 吐き気とかしない?

由美恵:
グレイスさん! 大丈夫です。体調はすこぶる良いです。問題ありません……!

グレイス:
やっぱりね。高レベルニューロチップ同士の認証は、來奈の方は問題なかったんだけど……スレイブ側の由美恵の生体リアクターが一時的に負荷を超えたみたい。
認証後に意識を失ったけど、バイタルは正常だったから、そのまま寝かせておいたよ。

由美恵:
そうだったんですね……ご迷惑をおかけしました。

グレイス:
大丈夫。こういう時のために、衛生メイドの私と、バイオメイド博士のソフィアがいるんだから。

由美恵:
……はい。ありがとうございます。

グレイス:
それでさ、由美恵。

由美恵:
はい? なんでしょうか?

グレイス:
膝枕はともかくさ……。
その來奈の手をぎゅっと握りしめたまま、目の前でイチャつくのは、そろそろ遠慮してもらえない?
二人とも、認証式の後でラブラブなのは分かるけどさ。

由美恵:
ひぃぃ……!? あ、あぁ……(真っ赤)

來奈:
……ごめんなさい。

SE:
コンコン♪(ノック音)

來奈:
どうぞ~……。

悠名:
失礼しま~す! 由美恵、元気になった~?

仁香:
……起きてますか? ……あっ、これは……。

悠名:
あれ、もしかして……邪魔しちゃった?


その15 へ続く