第三話 moving soul その16

 
仁香:
ご主人様…ほんとにこれでいいんですか?
じゃあ…私はスポーツドリンク、いただきますね…。

ソフィア:
うん、それでいいの。ありがと、仁香。

仁香:
……風が少しありますね……。ちょうどよくて、気持ちいい……。
ここ、室内なのに……なんだか不思議です。

ソフィア:
このテラスのために、大型の空調ファンが回ってるの。
虫が入らないようにもなってるらしいわ。

仁香:
なるほど……室内プールだけど、大気の流れはあるんですね…。

仁香:
……ご主人様……。
私を助けてくださったのは……製造プラントの座標を知るため、ですよね?
マスター登録が必要だったとしても、
専属のメイドにする必要はなかったって……悠名から、そう聞きました。
保護は、エンパイアクラブに任せることもできたはず……。

……それでも、私を「ご主人様のメイド」にしたのは……
可哀そうだったから、ですか?

ソフィア:
少し違うかな……。
治療して、信号が安定して、意識が戻るかもしれないって思った時――
仁香に……哀れみじゃなくて、共感みたいなものを感じたの。
……シンパシーって、言うのかな。

仁香:
共感……ですか?

ソフィア:
わたしも戦場で、多くのバイオメイドを回収してきたから…仁香が歩んできた人生、なんとなく想像できるの。
仁香も、生まれてすぐに訓練を受けて、戦場に出て、調整のために後方へ送られても、仮マスターの夜伽まで義務として…
それでもまた、前線へ戻されて…。
最後は、私がいたロンゴリミリアドでアーマーメイドに敗れて──回収された。
きっと、戦うためだけの人生だったと思う。

仁香:
……………

ソフィア:
私もね、小さい頃から…パパの研究を早く手伝いたくて。
だから、幼年学校を全部飛び越えて、そのまま大学院の研究所に入って。
來奈や咲夜、悠名たちのところに遊びに行く時以外は──ずっと、バイオメイドの研究ばかりしてた。

でもね、パパが亡くなって、本当にやっていたことを知った時……その罪の意識から逃れたくて、
無理やり兵士として使われてるバイオメイドたちを回収する活動にのめり込んでいったんだ。

仁香:
……………

ソフィア:
でも、ふと我に返った時に気づいたの。
私…子供の頃から、來奈たち以外と遊んだ記憶がないなって。

学校へ行って、友達と笑ったり、恋をしたり──
普通の女の子が経験するはずのこと、私はほとんどしてこなかった。
そう思ったら、心がすごく…疲れてたんだ。

仁香:
……………

ソフィア:
寝てる仁香の顔を見たとき──この子も、きっと似てるんだろうなって。
もし、これから一緒に過ごせたら…
ご主人様とメイドとして、ふたりで…普通じゃないかもしれないけど、新しい人生を始められるんじゃないかって。

私のためじゃ難しくても、仁香のためなら……できるかもしれないって。
それで……なんだか、仁香のことが、すごく愛おしくなってしまって……。

ソフィア:
……それに、容姿もすごく好みだったし。
私、女の子しか恋愛対象じゃないから……
仁香がもしメイドになったらって、つい妄想が膨らんじゃって……。

……ごめんね。
ようするに──惚れちゃったの。

それでね……クラブのこととか、今後のこととか、いろいろ勝手に考え始めて……
仁香の気持ちも聞かずに、全部進めちゃって……
ほんとに……ごめんなさい……

仁香:
ご主人様、謝らないでください。
……私も、ご主人様に惚れてますから。
謝る必要なんて……ありません。

仁香:
ご主人様が私を想ってくれたように……
私も、ご主人様のこと……ずっと大切に思ってました。

ソフィア:
……うん。
それだけで、私には十分だよ。

仁香が少し躊躇いながらも視線を上げる。右手でそっとソフィアのバスローブの裾をつまむ。

仁香:
……私、ご主人様に……何もお返しできないけど……

ソフィア:
そんなこと……気にしなくていいの。
仁香の気持ちだけで、私は本当に嬉しいから……。

仁香:
……ご主人様はそれでよくても……
「ご主人様のメイド」の私が、それじゃ……足りないんです……

ソフィア:
……そう……足りないのね……

仁香:
……私のすべてで、応えたいんです。
だから──
抱いてください、ご主人様……


その17 へ続く