第三話 moving soul その3
優香
はぁ…疲れたわ……
ミーナ
司令、本当にお疲れさまです。温かいコーヒー、どうぞ♪
優香
ひぃっ! ミーナちゃん、ありがとう……あの、恥ずかしいところを見られちゃったわね……
ミーナ
いえいえ、司令、本当にお疲れだと思いますので。
優香
でも、パイロットは今、休息の時間じゃなかった?
ミーナ
私は一時間ほど仮眠を取りました。里穂特務大尉、ロッテ大尉、フレデリカ大尉、アンジェラ中尉は現在就寝中です。
優香
一時間って……それじゃ足りないでしょ! パイロットならちゃんと休みなさい!
ミーナ
私、普段はともかく、一度戦闘モードに入ると眠れなくなっちゃうんです。司令もご存じだと思いますが、私もすみれご主人様ほどじゃないにせよ、「怪物」ですから。戦闘に支障はありません。
優香
あなたもすみれちゃんも、瑠莉ちゃんと同じで大変ね……。
エステル
そこの記者の方、どうぞですわ。
記者
今の説明を聞く限り、あの巨人兵器…アーマーメイドに対抗できるのは、同じアーマーメイドしか存在しない、ということでしょうか?
つまり、戦略自衛軍の通常装備では防衛が困難であると?
エステル
その点につきましては、わたくしではなく、戦略自衛軍を管轄する日本国戦略防衛省に直接お尋ねになるのが適切かと思いますわ。
エステル
では、次の記者の方、どうぞ。
記者
今回の攻撃により、戦略自衛軍の戦闘機二機が墜落し、民間地域にも被害が発生しました。
さらに、我が国が巨額の血税を投じたイージス艦が一隻沈没しています。
このような重大な損害が発生したことについて、エンパイアクラブとしてどのように責任を考えていますか?
エステル
戦略自衛軍の戦力が損失し、それによって民間地域に被害が及んだことは、非常に悲しい出来事であると認識しております。
記者
いや、戦略自衛軍の戦闘機やイージス艦を、エンパイアクラブ・ミリタリアが防衛できなかったこと自体に問題があるのでは?
エンパイアクラブ側の責任について、どのようにお考えでしょうか?
エステル
エンパイアクラブ・ミリタリアは、その名の通り、エンパイアクラブのオーナー個人と、その企業やクラブが協力し合い、地域社会を防衛するための国際的に認められた軍事組織です。
そのため、軍事費はすべてオーナーたちの自費によって賄われています。
一方で、この国の土地、国民の生命と財産を守る責任は、国民自身の税金で運営されている戦略自衛軍にあると認識しております。
記者
つまり、今回の攻撃はエンパイアクラブを標的としたものであり、我が国の国民には無関係だったとお認めになると?
そもそも、メイドという存在がいなければ、日本が攻撃を受けることもなかったのでは?
この点について、どう責任を取るおつもりでしょうか?
一部では「すべてのメイドをこの国から追放すべき」という意見も上がっていますが、それについてのお考えは?
エステル
今回の攻撃は、エンパイアクラブのオーナー企業が集中する南伊豆の都市全体を標的としたものと考えます。
そして、そのオーナー企業や関連企業のほぼすべてにメイドが関わっています。
仮に、すべてのメイドを日本から追放した場合、その企業群も国外へ移転せざるを得なくなるでしょう。
それにより、日本のGDPに占める何十パーセントが消失することになるのか、貴方はご存じですか?
さらに、それらの企業が撤退したとしても、その取引先やインフラの維持は必要不可欠なままです。
それすらもすべて無くしたとして、果たしてそれで「攻撃されない」と保証できるのでしょうか?
攻撃するかどうかを決めるのは、こちらではなく相手側です。
そして、仮にオーナーたちやメイドが国外へ追放された場合、エンパイアクラブ・ミリタリアはもはや日本を防衛する理由がありません。
そのとき、本当に戦略自衛軍だけで、アーマーメイドの攻撃を撃退し、国民の生命と財産を守ることができるのでしょうか?
この問いの答えを出すのは、私ではなく防衛省の責務ではありませんか?
……まあ、撃沈された自軍の救助要請を再三無視し、結局こちらに任せきりにしたような軍隊が、本当に頼りになるのかどうか――
その点については、私個人としては甚だ疑問ではございますが。
記者:
ですが、エンパイアクラブのオーナー企業が日本にこれほど強い影響を与えていること自体、異常ではないでしょうか?
一企業、あるいは一部のメイドオーナーたちが国家の安全保障にまで関与するなど、本来あるべき姿とは思えません。
そもそも、日本の防衛を担うのは国の軍隊であり、エンパイアクラブではないはずです。
にもかかわらず、一武装組織が「国の防衛」にまで関与し、自衛軍よりも効果的に機能しているという現状自体が、国家の主権に対する脅威ではないのですか?
加えて、今回の戦闘でエンパイアクラブ・ミリタリアが自衛軍の要請を受ける形で対応したとはいえ、
それが恒常的になるならば、事実上、エンパイアクラブが日本の防衛を担っていることになるのでは?
もしそれが事実なら、これは単なる企業の軍隊ではなく、「国家の中のもう一つの軍」と見なされてもおかしくないと思いますが?
――エンパイアクラブ・ミリタリアは、民間の防衛組織ではなく、「影の軍隊」なのではありませんか?
エステル:
「影の軍隊」などという言葉には、センセーショナルな響きがありますわね。 ですが、少し誤解があるようですわ。
まず、わたくしどもエンパイアクラブのオーナー企業が経済的に影響力を持つのは、単に日本国内の需要と供給の結果です。
これを異常とおっしゃるのであれば、逆にお聞きしたい。
国内外に広く展開し、影響力を持つ他の大企業――例えば、防衛産業やエネルギー産業を担う企業群についても、「異常」だとお考えなのですか?
そして、国家の防衛を担うのが本来は国の軍隊であるというのは、まさにその通りですわ。
しかしながら、現実には戦略自衛軍が独力で国民の生命と財産を守ることが難しくなっているからこそ、
わたくしどもエンパイアクラブ・ミリタリアは地域防衛の一環として、オーナー企業やその協力者の防衛活動を担っているに過ぎません。
この国の防衛を担うべき組織がその責務を十分に果たせない以上、
企業や民間組織が自己防衛を強化するのは、むしろ当然の帰結ではありませんか?
貴方が今、わたくしに問いかけている問題こそが、
この国の防衛体制の不備を象徴しているのではなくて?
もし、本当にエンパイアクラブ・ミリタリアの存在が国家主権の脅威であるというのならば、
戦略自衛軍が単独でアーマーメイドの侵攻を防ぎ、
国民の生命と財産を完全に保障できるという証拠を、今この場でお示しになれますか?
記者:
確かに、日本の防衛体制には課題があるかもしれません。しかし、それを補う形で民間企業――特にエンパイアクラブのような独立した武装組織が防衛の一端を担うのは、国家の統治機構と衝突する可能性があるのでは?
エンパイアクラブ・ミリタリアは、現行の日本の法制度のもとでどのような立場にあるのか明確に示していただけますか?
また、国家と独立した軍事力を持つことで、将来的に政府と対立する危険性はないのでしょうか?
エステル:
なるほど、ではお答えいたしますわ。
まず、エンパイアクラブ・ミリタリアは「独立した武装組織」ではなく、国際法の枠組み内で認められた民間軍事組織、PMC(Private military company)であり、日本国内でも合法的に活動しております。
また、エンパイアクラブ・ミリタリアはあくまで防衛を目的とした組織であり、日本政府の統治機構と対立する意図は一切ございません。
むしろ、わたくしどもは日本政府と協力し、必要な防衛力を補完している立場です。
そして、もしこの国の政府が「自国を守る能力を完全に有する」と証明し、我々の支援を必要としないと正式に決定された場合、
エンパイアクラブ・ミリタリアはいつでも防衛活動から手を引く用意があります。
しかし、ここで改めて問いたいのです。
――政府は本当に、それを実行できるのですか?
アーマーメイドの脅威に対し、戦略自衛軍のみで国を守るという確証があるのなら、今この場で明示していただきたいですわ。
でもそれは、あなたでは無く、戦略自衛軍を管轄する戦略防衛省の担当大臣が答えるべきものでしょうね? それが議会制自由民主主義ですから。
司会:
議長、記者の皆様、大変申し訳ございません、時間を大幅にオーバーしております! 会見はここまでとさしていただきます!
その4 へ続く