第三話 moving soul その4

 
來奈:
ひぃぎゃわああぁああああああ!

來奈:
こ…こんなのどう考えても無理!! ちょ、ちょっと待って!? 何この量!?
G7全部(日本除く)からアーマーメイドの発注殺到!? しかも規模がデカすぎる!!
これ、もはや商談じゃなくて軍事作戦レベルじゃない!?
D.I.P(ダミー・インテリジェント・プログラム)じゃ対応しきれないって!!

咲夜:
お嬢様、取り乱しすぎです。
企業のトップがそんなに狼狽えてどうするんですか?
落ち着いてください、情けないですよ?


來奈:
咲夜ぁ!! だったらこれ見てよ!!
各国の軍の調達部から、こんな契約申込みが次から次へと届いてるの!!」

(來奈が操作すると、共有のARディスプレイが咲夜の方へスルスルと移動する。)

咲夜:
……これはまた、壮観ですね。
なるほど、G7(日本を除く)の軍部が本気で動いている……

咲夜: 
ナニナニ……?

(ARディスプレイに映し出される送信内容)
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送信者:アメリカ国防総省・調達局
件名:至急|アーマーメイド調達プログラムへの即時参加申請

内容:
「貴社が製造するアーマーメイドユニットの性能を評価し、本国防総省として即時調達を希望する。
現在、既存の機甲戦力では十分な防衛力を確保できないと判断し、以下の契約内容に基づく速やかな納入を求める。」

要件:
量産型アーマーメイド 120機
追加オプション: 戦術AI搭載・リフレクターフィールド改修済みモデル
価格: 政府承認済みの軍事調達予算枠に基づき、要交渉
契約締結後、30日以内に初回納入希望
政府調達特例条項に基づく優先供給の確約を求める

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咲夜:
……120機。さすがアメリカ、豪快な発注ですね。

來奈:
いやいやいや! ウチの生産ラインで、そんな数を一気に出せるわけないでしょ!?
しかも"30日以内"って……何その無茶振り!!

咲夜:
次は…

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送信者:英国戦争省・特殊作戦部門
件名:機密|アーマーメイド試験導入計画に関する非公式打診

内容:
「貴殿が保有する特殊戦仕様のアーマーメイドユニットの性能について、極秘裏に評価を行いたい。
計画は公には発表されないが、特定の作戦環境において実験的な運用を目的とする。」

要件:
カスタム仕様のアーマーメイド 8機
試験運用目的であり、現地部隊との連携訓練を実施予定
機密保持契約を結んだ上で、購入ではなく「リース契約」を希望
一部武装の換装カスタマイズ要相談
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來奈:
ふぅん……英国はまた慎重ね。余裕があるというか……

咲夜:
公にするつもりはなく、まずは試験運用と。
栗田源三閣下や櫻糀瑠莉閣下とは別に、王室と議会警備の"もしものため"に、最低限の戦力を確保しようということでしょう。

來奈:
まあ、そりゃそうよね……いきなり100機単位で買う国とは違うか。
それに、栗田閣下や瑠莉閣下の本屋敷もあるし……MI2が事実上エンパイアクラブ・ミリタリア特殊作戦群そのものだしね。

ソニア:(苦笑)
英国らしい慎重さですね……でも、その分裏では色々と根回しが進んでいそうですね。

來奈:
それで、お宅のところがコレ。

咲夜:
なになに……

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送信者:フランス国防調達庁
件名:正式購入申請|EU防衛協定に基づく共同調達

内容:
欧州連合防衛協定(EU-DP)に基づき、貴社のアーマーメイド製品を加盟国向けに共同調達する契約を希望する。
本計画は欧州全体の防衛戦力増強の一環として行われるものであり、正式な契約条件について早急に協議したい。

要件:
共同購入分として最低50機(最大200機)
EU加盟国間での配備調整を行うため、ロットごとに納入希望
EU防衛条約の下、特定のオプション装備を求める可能性あり
費用はEU全体の防衛予算から支出
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來奈:
フランスっていうか……欧州軍全体で買うつもりだってさ。

咲夜:
共同調達ですね。これは慎重に検討した方がよろしいかと。
オランダの本部を通さず、フランス軍独断の可能性があります。……ヤツラならやります。 この私が保証します。

來奈(げんなり):
保障されても困るんだけど……それに、これ……契約書だけで何十冊にもなりそう……

來奈:
最後がこれ……」
(画面に次の契約申請が表示される)

咲夜:
……
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送信者:カナダ防衛庁
件名:特別軍事契約に関する交渉の打診

内容:
「貴社のアーマーメイド製品の性能に鑑み、本国は長期的な配備計画を策定中である。
ついては、以下の条件に基づき、カナダ軍向けに特例枠としての長期契約を締結したい。」

要件:
初期配備 80機
5年間で計500機の調達予定
国内生産ライン設立も視野に入れた技術移転の可能性について協議希望
特例契約に基づく「独自仕様機」の開発提案を求める
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來奈:
うちの国……あんたら何年計画なの!? しかも技術移転!?
月空アームドインダストリーは国際企業だけど、あんたらの国が本拠地でしょ!?
技術移転できる他の企業があると思ってるの?! そんなにウチの知名度ないの!?
何のためにカナダに納税してると思ってんの!?

咲夜:
あははっ! たぶんそこまで調べてませんね。
灯台下暗しっていうやつかと? しかし、これは長期的な戦略ですね(笑)

來奈:
もう、どこから手をつければいいのか分かんない……。
どの契約にしても、直接その国に行って協議しないといけないし……ムリだって……。

咲夜:
それはそうでしょうね。

來奈:
どうしよう、咲夜……。

咲夜:
ここはプロを頼るべきかと? 取引先に頭を下げるのも、トップの務めかと思いますが?

來奈:
栗田総合海運! いや、栗田ファイナシャルグループの栗田楓 CEO!! 

咲夜:
本来は、私が同行してForestに昨日、ご挨拶する予定だったのが、本日になったわけですから……。
この際、頼んでみたらいかがでしょうか?

來奈:
そうだね! まあ、いつも兵器の運搬と現地での契約は委託してるわけだし……。
アーマーメイドの運搬は通常、品ごとに契約するのが基本だけど、今回は特別に栗田総合海運と栗田ファイナンシャルグループに独占契約を結ぶ形にするってことで……。
手数料を弾んで、交渉をうまく進められれば……どうにかなるかな……?

ソニヤ:
各国の政府と軍部……さすがに動きが早いわね。
一番ゆっくりしているのが、首都近くまで攻め込まれた日本っていうのが、いかにもこの国らしいわ。

その5 へ続く