えんぱいあな日々Ring of Fortune 第三話「moving soul」

 


前話

第二話「Red Liberation」

來奈:
んぅ……今、何時だろ……?

咲夜:
くぅ~♪

來奈:
えっ、10:30!?

來奈:
由美恵さん、ごめんなさい。本当は朝一番で連絡するつもりだったのに、寝坊しちゃって……。
それでね、専属侍従メイドの件だけど、ちゃんと咲夜から許可をもらえたから……。

由美恵:(AURORAの通信AR画面内)
はい。でもそんなことより、ご主人様たち、ご無事なんですか!?

來奈:
無事? ……何が?

由美恵
ご主人様、ご無事なんですね! こうして直接お話できて、本当に安心しました……!

こずえ
よかった……。

アナエル:(花恋とAURORA通信中)
なんでアリエルお姉ちゃんを私の代わりに乗せて、勝手に出撃してるんですか!?
TVのニュースにチラッとセレーネが映ってたのに、中身が私じゃないなんて許せません!
えっ? だって世界デビューですよ!? その映像、海外のニュースやネットでも流れてるんですから!

ご主人様やお姉さん達の無事より、気にするのそこなの?

アナエル
だって、お姉ちゃん達や、ましてあのご主人様が……あの程度の戦闘でやられるわけないじゃないですか。

絶対的信頼感……。

由美恵
ですから、昨日そちらで戦闘があったんですよね?
え? なんで知ってるのかって……?
TVやネットの報道でも大騒ぎになってますよ!

モニカ
これが、こないだ里穂さんとロッテさんが説明してくれた「守人」かな?
かっこいい!

アニエス
あの燃えてるお船もかなり大きいけど、それと比べてもずいぶんデカいよね。

菜乃
まあ、戦略自衛軍のミサイルイージス艦も結構な大きさだからね……。

TVの軍事専門家
この、自衛隊員の救助にあたっているメイドですが、一見すると幼い少女に見えますね。
しかし、こちらの機体についているエンブレムをご覧ください。
これは、エンパイアクラブ・ミリタリアの特殊部隊の中でも、特に戦闘能力の高いメイド達が集められている部隊のものです。
本拠地は白急下田にあり、彼女たちは特殊師団の――

千沙
昨日のミーナさんやアンジェラさんの部隊って、美月たちがこれからお仕事することになる部隊だよね?
そんなに特別なの?

美月
うん……
でも、それより……なんで戦闘の映像がマスコミやネットに流出してるの?

メリー
戦闘が起こったのは浦賀水道――あそこは民間船がひしめき合う海域だからね。
これは、おそらく民間のドローンが撮影した映像……
本来なら、Forestの調査部が事前に情報を抑えたり、欺瞞情報を流して拡散を防ぐはずなのに……
もしかして、意図的に放置した?
優香さんと悠里さん、何を考えてるのかしら……

千沙
メリーが難しい顔してブツブツ言ってる……

來奈
えっ……なにこれ……?
なんで昨晩の戦闘の映像が全国放送されてるの……?
しかもボイベーまで映ってる……!?

來奈
(咲夜の頬をやさしくペシペシ叩く)
咲夜……起きて……大変なことになってるの……!

咲夜
んぅ……お嬢様……まだ眠いです……
もう少しだけ……お嬢様の胸の中で……
お嬢様の匂いに包まれて……柔らかさに癒されていたい……

來奈
そんな場合じゃないから!!
 
ヴェル:
ここはメイド用の施設だから、普通の人間を運び込まれても対応できないっていうの

美琴:
そうですよね…。まさかメイド用の治療ポッドに入れるわけにもいきませんし。

シュン♪(扉が開いてまた閉まる)

仁香:
!! ドクター! 違うんです、逃亡しようとしたわけじゃなくて…トイレに行ったら迷っちゃって、病室に戻れなくなって…

アンナ:
そんなに慌てなくていいよ。ここ、けっこう構造が複雑だからね。
それに、この区画なら自由に歩いていいって言ってあるでしょ?

仁香:
でも…私、捕虜ですし…

アンナ:
仁香くんは「捕虜」じゃなくて「保護したメイド」。
まあ、それは置いといて…ちょうど差し入れがあるんだ。
小麦粉の生地にあんこを包んで焼いた、円筒形または円盤状の和菓子」なんだけど。

仁香:
えっ? それって…何ですか?

美琴:
仁香ちゃん、いらっしゃい♪
悠名ちゃん、ちょっと詰めてあげて。ヴェルさん

悠名:
うん…(小さくうなずきながら横にずれる)

ヴェル:
ほいっ! さて、何が飲みたい?

仁香:
えっと…コーラとか…。

(ゴトン♪ 自販機の取り出し口にコーラが落ちる)

仁香:
ヴェルコヴァ博士…いや、ヴェルさん。いただきます。

悠名:
けっこう熱いから気をつけてね…

仁香:
熱っ! これが…!?

悠名:
日本のお菓子だよ。甘くて美味しいから、ゆっくり食べてね…

仁香:
はい…

仁香:
あむっ、あむっ……う~んっ!♪ この皮も美味しいけど、中の黒いのが甘くて、でも甘すぎなくてちょうどいい! こんなの初めて食べた♪

悠名:
美味しいよね。黒いのは「あんこ」って言うんだって。ほんのり甘くて、温かくて……食べると幸せな気持ちになる味♪

私は橋本悠名。あなたの名前は?

仁香:
橋本……あっ、私は橋本仁香です。
あの、悠名さんも橋本製のバイオメイド? もしかして、私と同じように戦闘で負傷して、捕虜として新評議会派に保護されたんですか?

悠名:
私は正統議会派に合流した「クロトの子」に、ボイベーと一緒に誘拐されて……昨日、救出されたんだ。

仁香:
ボイベー……月空家のマスターアーマーメイド。
たしかに、クロトの子がメインバイオユニットと一緒に所有しているって聞いたことがあります。

悠名:
そう、そのアーマーメイドのボイベー。
でも「所有」というより……私はそのボイベーの中に囚われていたバイオユニットだったの。
仁香さん、詳しいね。

仁香:
私もそのボイベーを解析して、評議会側で製造された量産型アーマーメイドの制御バイオメイドだから……。

悠名:
そっか……。仁香さんも私と同じ、アーマーメイドで戦うために生み出されたメイドなんだね。

ヴェル:
悠名ちゃん、なんか昔のクレアみたいなこと言ってない?
「衛生メイドは、メイド達を少しでも長く生かすために生まれた。だから、治療することだけが生きる意味」——昔はよくそう言ってたよ。
でも、今のクレアは衛生メイドというより、メイド学校の先生がメインになっちゃったけどね。

美琴:
メイドも普通の人間も、同じ「人」だよ。
「どのように生まれたか」じゃなくて、「どう生きるか」が大事なんだと思う。

仁香:
「どう生きるか?」……考えたことなかったです。
難しいですね……。

悠名:
そうだね。私がボイベーを動かすのは、戦うことが目的じゃなくて、咲夜や來奈お嬢様たちと一緒に幸せになるため。
……でも、それにしても咲夜、なんで来ないの?
まさか……來奈お嬢様がいるから、私はもういらない子……?

アンナ:
悠名、ほら、咲夜くんも昨日は大変だったし、疲れてるんじゃない?
……まあでも、そろそろ連絡とってみるから。
 
優香
はぁ…疲れたわ……

ミーナ
司令、本当にお疲れさまです。温かいコーヒー、どうぞ♪

優香
ひぃっ! ミーナちゃん、ありがとう……あの、恥ずかしいところを見られちゃったわね……

ミーナ
いえいえ、司令、本当にお疲れだと思いますので。

優香
でも、パイロットは今、休息の時間じゃなかった?

ミーナ
私は一時間ほど仮眠を取りました。里穂特務大尉、ロッテ大尉、フレデリカ大尉、アンジェラ中尉は現在就寝中です。

優香
一時間って……それじゃ足りないでしょ! パイロットならちゃんと休みなさい!

ミーナ
私、普段はともかく、一度戦闘モードに入ると眠れなくなっちゃうんです。司令もご存じだと思いますが、私もすみれご主人様ほどじゃないにせよ、「怪物」ですから。戦闘に支障はありません。

優香
あなたもすみれちゃんも、瑠莉ちゃんと同じで大変ね……。

エステル
そこの記者の方、どうぞですわ。

記者
今の説明を聞く限り、あの巨人兵器…アーマーメイドに対抗できるのは、同じアーマーメイドしか存在しない、ということでしょうか?
つまり、戦略自衛軍の通常装備では防衛が困難であると?

エステル
その点につきましては、わたくしではなく、戦略自衛軍を管轄する日本国戦略防衛省に直接お尋ねになるのが適切かと思いますわ。

エステル
では、次の記者の方、どうぞ。

記者
今回の攻撃により、戦略自衛軍の戦闘機二機が墜落し、民間地域にも被害が発生しました。
さらに、我が国が巨額の血税を投じたイージス艦が一隻沈没しています。
このような重大な損害が発生したことについて、エンパイアクラブとしてどのように責任を考えていますか?

エステル
戦略自衛軍の戦力が損失し、それによって民間地域に被害が及んだことは、非常に悲しい出来事であると認識しております。

記者
いや、戦略自衛軍の戦闘機やイージス艦を、エンパイアクラブ・ミリタリアが防衛できなかったこと自体に問題があるのでは?
エンパイアクラブ側の責任について、どのようにお考えでしょうか?

エステル
エンパイアクラブ・ミリタリアは、その名の通り、エンパイアクラブのオーナー個人と、その企業やクラブが協力し合い、地域社会を防衛するための国際的に認められた軍事組織です。
そのため、軍事費はすべてオーナーたちの自費によって賄われています。
一方で、この国の土地、国民の生命と財産を守る責任は、国民自身の税金で運営されている戦略自衛軍にあると認識しております。

記者
つまり、今回の攻撃はエンパイアクラブを標的としたものであり、我が国の国民には無関係だったとお認めになると?
そもそも、メイドという存在がいなければ、日本が攻撃を受けることもなかったのでは?
この点について、どう責任を取るおつもりでしょうか?
一部では「すべてのメイドをこの国から追放すべき」という意見も上がっていますが、それについてのお考えは?

エステル
今回の攻撃は、エンパイアクラブのオーナー企業が集中する南伊豆の都市全体を標的としたものと考えます。
そして、そのオーナー企業や関連企業のほぼすべてにメイドが関わっています。

仮に、すべてのメイドを日本から追放した場合、その企業群も国外へ移転せざるを得なくなるでしょう。
それにより、日本のGDPに占める何十パーセントが消失することになるのか、貴方はご存じですか?

さらに、それらの企業が撤退したとしても、その取引先やインフラの維持は必要不可欠なままです。
それすらもすべて無くしたとして、果たしてそれで「攻撃されない」と保証できるのでしょうか?
攻撃するかどうかを決めるのは、こちらではなく相手側です。

そして、仮にオーナーたちやメイドが国外へ追放された場合、エンパイアクラブ・ミリタリアはもはや日本を防衛する理由がありません。
そのとき、本当に戦略自衛軍だけで、アーマーメイドの攻撃を撃退し、国民の生命と財産を守ることができるのでしょうか?

この問いの答えを出すのは、私ではなく防衛省の責務ではありませんか?

……まあ、撃沈された自軍の救助要請を再三無視し、結局こちらに任せきりにしたような軍隊が、本当に頼りになるのかどうか――
その点については、私個人としては甚だ疑問ではございますが。

記者:
ですが、エンパイアクラブのオーナー企業が日本にこれほど強い影響を与えていること自体、異常ではないでしょうか?
一企業、あるいは一部のメイドオーナーたちが国家の安全保障にまで関与するなど、本来あるべき姿とは思えません。

そもそも、日本の防衛を担うのは国の軍隊であり、エンパイアクラブではないはずです。
にもかかわらず、一武装組織が「国の防衛」にまで関与し、自衛軍よりも効果的に機能しているという現状自体が、国家の主権に対する脅威ではないのですか?

加えて、今回の戦闘でエンパイアクラブ・ミリタリアが自衛軍の要請を受ける形で対応したとはいえ、
それが恒常的になるならば、事実上、エンパイアクラブが日本の防衛を担っていることになるのでは?

もしそれが事実なら、これは単なる企業の軍隊ではなく、「国家の中のもう一つの軍」と見なされてもおかしくないと思いますが?

――エンパイアクラブ・ミリタリアは、民間の防衛組織ではなく、「影の軍隊」なのではありませんか?

エステル:
「影の軍隊」などという言葉には、センセーショナルな響きがありますわね。 ですが、少し誤解があるようですわ。

まず、わたくしどもエンパイアクラブのオーナー企業が経済的に影響力を持つのは、単に日本国内の需要と供給の結果です。
これを異常とおっしゃるのであれば、逆にお聞きしたい。
国内外に広く展開し、影響力を持つ他の大企業――例えば、防衛産業やエネルギー産業を担う企業群についても、「異常」だとお考えなのですか?

そして、国家の防衛を担うのが本来は国の軍隊であるというのは、まさにその通りですわ。
しかしながら、現実には戦略自衛軍が独力で国民の生命と財産を守ることが難しくなっているからこそ、
わたくしどもエンパイアクラブ・ミリタリアは地域防衛の一環として、オーナー企業やその協力者の防衛活動を担っているに過ぎません。

この国の防衛を担うべき組織がその責務を十分に果たせない以上、
企業や民間組織が自己防衛を強化するのは、むしろ当然の帰結ではありませんか?

貴方が今、わたくしに問いかけている問題こそが、
この国の防衛体制の不備を象徴しているのではなくて?

もし、本当にエンパイアクラブ・ミリタリアの存在が国家主権の脅威であるというのならば、
戦略自衛軍が単独でアーマーメイドの侵攻を防ぎ、
国民の生命と財産を完全に保障できるという証拠を、今この場でお示しになれますか?

記者:
確かに、日本の防衛体制には課題があるかもしれません。しかし、それを補う形で民間企業――特にエンパイアクラブのような独立した武装組織が防衛の一端を担うのは、国家の統治機構と衝突する可能性があるのでは?

エンパイアクラブ・ミリタリアは、現行の日本の法制度のもとでどのような立場にあるのか明確に示していただけますか?
また、国家と独立した軍事力を持つことで、将来的に政府と対立する危険性はないのでしょうか?

エステル:
なるほど、ではお答えいたしますわ。
まず、エンパイアクラブ・ミリタリアは「独立した武装組織」ではなく、国際法の枠組み内で認められた民間軍事組織、PMC(Private military company)であり、日本国内でも合法的に活動しております。

また、エンパイアクラブ・ミリタリアはあくまで防衛を目的とした組織であり、日本政府の統治機構と対立する意図は一切ございません。
むしろ、わたくしどもは日本政府と協力し、必要な防衛力を補完している立場です。

そして、もしこの国の政府が「自国を守る能力を完全に有する」と証明し、我々の支援を必要としないと正式に決定された場合、
エンパイアクラブ・ミリタリアはいつでも防衛活動から手を引く用意があります。

しかし、ここで改めて問いたいのです。
――政府は本当に、それを実行できるのですか?
アーマーメイドの脅威に対し、戦略自衛軍のみで国を守るという確証があるのなら、今この場で明示していただきたいですわ。

でもそれは、あなたでは無く、戦略自衛軍を管轄する戦略防衛省の担当大臣が答えるべきものでしょうね? それが議会制自由民主主義ですから。

司会:
議長、記者の皆様、大変申し訳ございません、時間を大幅にオーバーしております! 会見はここまでとさしていただきます!

來奈:
ひぃぎゃわああぁああああああ!

來奈:
こ…こんなのどう考えても無理!! ちょ、ちょっと待って!? 何この量!?
G7全部(日本除く)からアーマーメイドの発注殺到!? しかも規模がデカすぎる!!
これ、もはや商談じゃなくて軍事作戦レベルじゃない!?
D.I.P(ダミー・インテリジェント・プログラム)じゃ対応しきれないって!!

咲夜:
お嬢様、取り乱しすぎです。
企業のトップがそんなに狼狽えてどうするんですか?
落ち着いてください、情けないですよ?


來奈:
咲夜ぁ!! だったらこれ見てよ!!
各国の軍の調達部から、こんな契約申込みが次から次へと届いてるの!!」

(來奈が操作すると、共有のARディスプレイが咲夜の方へスルスルと移動する。)

咲夜:
……これはまた、壮観ですね。
なるほど、G7(日本を除く)の軍部が本気で動いている……

咲夜: 
ナニナニ……?

(ARディスプレイに映し出される送信内容)
----------------------
送信者:アメリカ国防総省・調達局
件名:至急|アーマーメイド調達プログラムへの即時参加申請

内容:
「貴社が製造するアーマーメイドユニットの性能を評価し、本国防総省として即時調達を希望する。
現在、既存の機甲戦力では十分な防衛力を確保できないと判断し、以下の契約内容に基づく速やかな納入を求める。」

要件:
量産型アーマーメイド 120機
追加オプション: 戦術AI搭載・リフレクターフィールド改修済みモデル
価格: 政府承認済みの軍事調達予算枠に基づき、要交渉
契約締結後、30日以内に初回納入希望
政府調達特例条項に基づく優先供給の確約を求める

----------------------
咲夜:
……120機。さすがアメリカ、豪快な発注ですね。

來奈:
いやいやいや! ウチの生産ラインで、そんな数を一気に出せるわけないでしょ!?
しかも"30日以内"って……何その無茶振り!!

咲夜:
次は…

----------------------
送信者:英国戦争省・特殊作戦部門
件名:機密|アーマーメイド試験導入計画に関する非公式打診

内容:
「貴殿が保有する特殊戦仕様のアーマーメイドユニットの性能について、極秘裏に評価を行いたい。
計画は公には発表されないが、特定の作戦環境において実験的な運用を目的とする。」

要件:
カスタム仕様のアーマーメイド 8機
試験運用目的であり、現地部隊との連携訓練を実施予定
機密保持契約を結んだ上で、購入ではなく「リース契約」を希望
一部武装の換装カスタマイズ要相談
----------------------

來奈:
ふぅん……英国はまた慎重ね。余裕があるというか……

咲夜:
公にするつもりはなく、まずは試験運用と。
栗田源三閣下や櫻糀瑠莉閣下とは別に、王室と議会警備の"もしものため"に、最低限の戦力を確保しようということでしょう。

來奈:
まあ、そりゃそうよね……いきなり100機単位で買う国とは違うか。
それに、栗田閣下や瑠莉閣下の本屋敷もあるし……MI2が事実上エンパイアクラブ・ミリタリア特殊作戦群そのものだしね。

ソニア:(苦笑)
英国らしい慎重さですね……でも、その分裏では色々と根回しが進んでいそうですね。

來奈:
それで、お宅のところがコレ。

咲夜:
なになに……

----------------------
送信者:フランス国防調達庁
件名:正式購入申請|EU防衛協定に基づく共同調達

内容:
欧州連合防衛協定(EU-DP)に基づき、貴社のアーマーメイド製品を加盟国向けに共同調達する契約を希望する。
本計画は欧州全体の防衛戦力増強の一環として行われるものであり、正式な契約条件について早急に協議したい。

要件:
共同購入分として最低50機(最大200機)
EU加盟国間での配備調整を行うため、ロットごとに納入希望
EU防衛条約の下、特定のオプション装備を求める可能性あり
費用はEU全体の防衛予算から支出
----------------------
來奈:
フランスっていうか……欧州軍全体で買うつもりだってさ。

咲夜:
共同調達ですね。これは慎重に検討した方がよろしいかと。
オランダの本部を通さず、フランス軍独断の可能性があります。……ヤツラならやります。 この私が保証します。

來奈(げんなり):
保障されても困るんだけど……それに、これ……契約書だけで何十冊にもなりそう……

來奈:
最後がこれ……
(画面に次の契約申請が表示される)

咲夜:
……
----------------------
送信者:カナダ防衛庁
件名:特別軍事契約に関する交渉の打診

内容:
「貴社のアーマーメイド製品の性能に鑑み、本国は長期的な配備計画を策定中である。
ついては、以下の条件に基づき、カナダ軍向けに特例枠としての長期契約を締結したい。」

要件:
初期配備 80機
5年間で計500機の調達予定
国内生産ライン設立も視野に入れた技術移転の可能性について協議希望
特例契約に基づく「独自仕様機」の開発提案を求める
----------------------
來奈:
うちの国……あんたら何年計画なの!? しかも技術移転!?
月空アームドインダストリーは国際企業だけど、あんたらの国が本拠地でしょ!?
技術移転できる他の企業があると思ってるの?! そんなにウチの知名度ないの!?
何のためにカナダに納税してると思ってんの!?

咲夜:
あははっ! たぶんそこまで調べてませんね。
灯台下暗しっていうやつかと? しかし、これは長期的な戦略ですね(笑)

來奈:
もう、どこから手をつければいいのか分かんない……。
どの契約にしても、直接その国に行って協議しないといけないし……ムリだって……。

咲夜:
それはそうでしょうね。

來奈:
どうしよう、咲夜……。

咲夜:
ここはプロを頼るべきかと? 取引先に頭を下げるのも、トップの務めかと思いますが?

來奈:
栗田総合海運! いや、栗田ファイナシャルグループの栗田楓 CEO!! 

咲夜:
本来は、私が同行してForestに昨日、ご挨拶する予定だったのが、本日になったわけですから……。
この際、頼んでみたらいかがでしょうか?

來奈:
そうだね! まあ、いつも兵器の運搬と現地での契約は委託してるわけだし……。
アーマーメイドの運搬は通常、品ごとに契約するのが基本だけど、今回は特別に栗田総合海運と栗田ファイナンシャルグループに独占契約を結ぶ形にするってことで……。
手数料を弾んで、交渉をうまく進められれば……どうにかなるかな……?

ソニヤ:
各国の政府と軍部……さすがに動きが早いわね。
一番ゆっくりしているのが、首都近くまで攻め込まれた日本っていうのが、いかにもこの国らしいわ。
 
來奈:
えっと遅れてゴメンさい…

咲夜:
ひぃ…

ソニア:
…‥

レイ:
ご主人様、ご苦労様です♪

ソフィア:
來奈お嬢様、わざわざお迎えありがとうございます。

仁香:
この方が…新評議会側に所属するエンパイアクラブのオーナー

悠名:
咲夜~遅い~! ソフィアが一緒なら経過観察ができるからすぐにお外に行っても良いって朝決まったのに! 來奈お嬢様、ソニアさん、お迎えありがとうございます。

咲夜:
いやさすがに疲れて寝坊しまして…お嬢様におこされて…

悠名:
ぅ~ん…どうせ咲夜の事だからそういう時は來奈お嬢様に抱き着いてお胸で甘えて寝てたんでしょう? 今は來奈お嬢様の『恋人』だもんね。

咲夜:
ギクっ! 悠名は千里眼でもあるんですか? いやいや…そんな事ありませんよ!

悠名:
図星…変わったのは性別と容姿だけじゃなくて心もか…甘えられれば誰でも良いとか…

咲夜:
そ…そんな事ないから!

悠名:
咲夜がハーレムね…まあ私を護れなくて失意のどん底になった咲夜の事を支えてくれたし、それ以前にわたしも來奈お嬢様の事は好きだし…認めるけど…ハーレム…

咲夜:
悠名さん‥?

仁香:
悠名、アレ大丈夫なんですか?

レイ:
痴話喧嘩は犬も食わないのでほっといて大丈夫です

來奈:
ソフィア? なんでそんなに他人行儀? 親友だよね。

ソフィア:
ふっ!

ソニア:
君がドクターソフィアのメイドの橋本仁香さん? 

仁香:
えっ! 私が? ドクターのメイド?

ソフィア:
君を治療するのにどうしても本マスター権限の書き換えが必要でキミの本マスターになった。 チップの認証情報見て見て。

仁香:
!? 本当だ…ご…ご主人様? 所属クラブ情報? エンパイアクラブ…シェルムーン? このレイさんから渡されて着替えたメイド服ってもしかして…そういう意味ですか?

レイ:
ようこそシェルムーンへ仁香さんを弊クラブは歓迎いたします♪ 弊クラブのメイド秘書を拝命しておりますレイ・アーデラです。

仁香:
メイド秘書? 隊長みたいなものですか?

レイ:
どちらかというと参謀長かしらね?

ソフィア:
それでメイド持ったけどわたしクラブ持ってないから。

ソフィア:
私のメイドの仁香の為に、クラブシェルムーンを所属しているメイド事、買収する事にしたから。

仁香:
えっ? 私の為に? クラブを買収する?

悠名・咲夜・ソニア:
へっ?

レイ:
だそうですご主人様。

來奈:
ソフィアが私の事をお嬢様呼びする時はロクデモナイ事考えついた時なのよね…

ソフィア:
來奈オーナー、私にクラブ売っちゃえ。 そしたら本業に集中できるじゃない? 悪い話じゃないでしょ?

レイ:
ご主人様、どうします買収をお受けいたしますか?

ソフィア:
來奈お嬢様、あなたは本気でクラブを守る覚悟があるの?

來奈:
……え?

ソフィア:
今朝から流れているニュース。 本業の方で今、とんでもない事態になってるのも予想できるわ。なのに、クラブのことまで全部背負って、本当に大丈夫なの?

來奈:
そ、それは……


仁香:
來奈お嬢様、そしてご…ご主人様? あの……私は普通のメイドとして何もできませんし…

メイド服も今、初めて着たばかりなのに、そんな事で揉めないで下さいませ? どうせ私なんて……収容所にでもぶち込んでいただければ……

ソニア:
仁香。そんな事言わないの。 私も瑠莉閣下に作戦中に保護されるまでは、ただの使い捨ての戦闘メイドだったから。 仁香は今、何がなんだかわからないよね?

來奈:
えっ

ソニア:
ご主人様、この仁香は、ロンゴミリアドがヴィクトリア基地防衛戦で唯一生存して、保護に成功した正統評議会側のアーマーメイドパイロットメイドなんです。

ソフィア:
仁香は私のメイドで、ご主人様として、この子にちゃんとした家を与え、仲間を与え、幸せにする義務があるの。わかった?

來奈:
……決めた。

ソフィア:
ふふっ……で、どうするの?

來奈:
クラブは私の家よ、そしてみんなの居場所だから。私は手放さない。

ソフィア:
まあ、そう言うと思ったわ。じゃあ……決まりね。

來奈:
決まりって?

ソフィア:
共同オーナーってことで。私も手伝ってあげるわ。

來奈:
……はぁ!? ちょっと待っ――

仁香:
ご…ご主人様はソフィア様なので…お…お嬢様、よろしく…お願いします。ご主人様と一緒にお世話になります。

ソフィア:
仁香、世話するのは私だけど!

レイ:
では、來奈オーナーとソフィア共同オーナーの元、シェルムーンは新体制へと移行しますね♪

ソフィア:
來奈達はこれからForestの楓オーナー代行と紅葉マネージャーの所に行くんでしょ? 私達は先にクラブへ戻るから。レイさん、メイド秘書として出資比率の調整や今後の運営方針について話し合いをお願いします。あと、今日からの部屋の手配も頼むみます。その前に車の手配をお願い。

レイ:
はい、畏まりました、ソフィア共同オーナー。 仁香さんはソフィア様付の専属侍従メイドということで、これからよろしくね♪

仁香:
専属? 侍従メイド? えっと…そういうメイドもいるんですね…。そこから教えてもらわないと…。 レイ・メイド秘書、とにかくよろしくお願いします。

(このメイド服を着て、ここで生きるっていうのも……悪くないかもしれない。)

來奈:
それで、日本に急遽来ることになったのは…?

悠名:
このアップルパイ、美味しい♪

信久
日本がアーマーメイドの奇襲を受けたと報告を受けて、心臓が止まりそうだった。そして気づいたら、プライベートジェットに飛び乗ってダレス空港()から離陸していたよ。

この変態ロリコンアニキのせいで昨晩は大変だったんだ。突然ジェネラルマネージャーが失踪して、北米支社とカナダ支社がパニックになってさ。

紅葉
まあ…愛妻家とも言えますし。籍もちゃんと入っておりますしね。

紅葉ちゃん、入ってなかったら犯罪だから、私が自ら手を下して極刑にしてる!

注:ワシントン・ダレス国際空港
首都ワシントンD.C.の国際線の玄関口である。ホワイトハウスの42Km西に立地している。

千秋
ここの部分、部署を分けないと、お互いの機密情報が筒抜けになりますよ。

あっ! そうだな、うっかりしてた。今すぐ変更する。

紅葉
ご存じかとは思いますが、現在、オーナーのフランソア、メイド長の里緒菜、メイド秘書の萌香、副メイド秘書の瑠美、そして副メイド長の里穂が不在でして……

來奈
里緒菜メイド長と里穂副メイド長とは昨日お会いできたので、ご挨拶させていただきました。

紅葉
そうでしたか。それで、不在の間は……メイド長の代行の代行として……

沙織
來奈ちゃん! 栗田沙織です、よろしくお願いします! 何でも相談してね!

來奈
はいっ! 沙織さん、よろしくお願いします♪

紅葉
沙織お姉さん、なんでそんなに偉そうなんですの?

沙織
だって代行とはいえ、Forestのメイド長だよ? あの詩織さんがやっていた役職だもん!

紅葉
今は沙織さんの実妹の里緒菜が、そのメイド長ですけどね……

美知留
メイド秘書課で紅葉お嬢様付きメイドをしています、美知留です。前瑠莉オーナーの時代から、このForestとシェルムーンは協力し合いながら、白森・白富地域を盛り上げてきたクラブなんです。だから、これからもぜひ協力してやっていきたいと思っています。困ったことがあっても、なくても、いつでも気軽に声をかけてくださいね。

來奈
はい、美知留さん! よろしくお願いします! とても心強いです!

おい楓、まだタスクの割り振り終わらないのか? さっきから電脳通信で英国の誠二(山科誠二)アニキと、美優ちゃんから交互に催促が飛んできて、うるさくて仕方ないんだが。

楓:
もうちょっと待ってろって伝えとけ!

紅葉:
くすくす♪ まあ、フランソアが不在の間は、Forestの全体調整は私とお姉ちゃんがやるしかないですからね。これくらいは当然の仕事かと。

…当然って簡単に言うな、紅葉。これ、ロジテックスまで組んでるんだぞ! 栗田グループ、鹿苑寺グループ、フォーシスターズ、山科グループ、それにAVALONグループ。各国政府や企業との調整も同時進行で回してるんだからな!

千秋
楓さん、怒鳴っても良いですが手を止めずに働いてください。

來奈
世界規模の物流網と製造拠点確保、それに商談ネットワークを、この短時間で5グループで形成したってこと!? すごすぎる! これなら…どうにかなるかも!

咲夜
いや、これでどうにかならなかったら、もうこの地上で解決できる存在はいないかと…

ソニア
鹿苑寺卿(信久のこと)はともかく、私たちが来る前に計画立案から各グループの根回しまで終わってるとか… さすがForest…怖いわ…
 
信久
レディー、どうぞ。

悠名
ありがとう、信久お兄ちゃん♪

咲夜
うぅ……む。

來奈:
くすすすっ♪ まさか咲夜、これくらいで信久お兄ちゃんに妬いてるの? 咲夜にもちゃんとエスコートしてくれたじゃない?

咲夜:
そうではありません! 鹿苑寺卿、今後は私をエスコートしないでください。 貴方は私の素性をご存じでしょう?

信久:
しかし今の君は立派なレディーだ。男として、それを無視するわけにはいかないな。

悠名:
そう、咲夜は立派なレディー♪

咲夜:
二人とも! あのですね!

咲夜:
あっははははっ! 楽しいぃ! 咲夜がレディー! 笑える! お腹痛い♪

咲夜:
楽しくも面白くもありません! お嬢様まで……!

ソニア:
悠名と合流してから、お嬢様も随分と素を出すようになったな。そうか……今までは悠名の分までお嬢様が支えていたんだ。それが必要なくなったから、自然と素に戻れたんだな。

SE:
ひゅんひゅん♪(オスプレイが降下してくる)

里緒奈:
みんな! 我がクラブ、Forestに着いたよ!

愛理:
Forestコントロール、こちらショートケーキ 今から着陸する

おい里緒菜、エンジンを止めるまで気を抜くなと何度いったら‥‥

里緒奈:
愛理、気は抜いてないからね!

千沙:
コレが…里緒菜先生がメイド長する…Forest? コレがエンパイアクラブ? 軍事基地じゃない?!

菜乃:
千沙、そんなことより、座り直してシートベルトを直せ。 怪我するよ。

千沙:
ねえメリー、見て! 信久様、旦那様がお迎えに来てる! それに來奈ご主人様も! えぇええ!? なんでここに!?

メリー:
なんでワシントンD.C.にいるはずの信久さんがここにいるの…? 嫌な予感しかしない。もしかして、数日の残りの講習と派遣式が安全の為に急遽、エンパイアクラブ本部で行う事になったのって…信久さんが無理を言って、エステル議長に頼み込んだんじゃ…

來奈:
由美恵~、みんな~! よく来たねぇ!

咲夜:
お嬢様、はしたないですよ。もう少しご主人様らしく…

ソニア:
咲夜、ご主人様としては、新人メイドにも親しみやすいフレンドリーな方が士気が上がるって、昨日メイド学校で話し合ったんですよ。ほら、ノーラメイド長もフレンドリーでしょう? その方が新人メイドたちも委縮せずに済むって方針が決まったんです。

咲夜:
そういう考えか…なるほど。

(ひょこっとソニアの背後から顔だけ出す悠名)

悠名:
おぉ…あれが新人メイドさんたちか…

由美恵:
ご主人様!

菜乃:
ちょっとでも早く会えてよかったね、由美恵。

由美恵:
うんっ…

優:
愛理隊長、これってやっぱり相当切迫した状況ですよね…ニュースを見て覚悟はしてましたけど…。
まさか、最前線に送り込まれてから操作マニュアル読んで即実戦するような、アニメみたいな展開にはならないですよね?

愛理:
メイドならガンバレ。気合だ。

優:
気合だけで何とかなるものじゃありませんから…。最低限の訓練は希望します。いや、させてください。

仁香:
……え? これって……プール?

ノーラ:
うん、プールだよ。

仁香:
す、すごい……めちゃくちゃ広い! しかも、これって……冬でも泳げるの?

ノーラ:
そうだよ。水温管理がされてるから、季節に関係なく使えるよ。

仁香:(
……でも、メイドの仕事ってこういうのと関係あるの? なんか、想像してたのと全然違う……。

ノーラ:
最初はみんなそう言うんだよ。ここでは、戦うだけがメイドの役目じゃないからね。

仁香:
……うん、でも……なんか、落ち着かない……。

仁香:
……あの、ここってご主人様のベッドですよね? 広いですね‥

ノーラ:
キングサイズだから、二人でも三人でも四人でも十分寝れる。「そういう為」のベッドだし。広くないとね♪。

仁香:
(ごっっ)そ…そういう為。 それで四人って…えっ…あぁ…

ノーラ:
ちなみにオーナールームの來奈ご主人様のベッドはこの1.5倍はある。よって5人でも6人でも寝れる!

仁香:
六人…(ゴクっ)…六人で‥‥

仁香:
それで私のお部屋は?

ノーラ:
ここで少し確認しとかない事があるの。 仁香、キミの為お部屋も一応用意できるけど「イラナイ」よね? 仁香はソフィアの「唯一」のメイド。 

仁香:
はい…そうですね。

ノーラ:
本当のところ、仁香はソフィアの事をご主人様として好きなの? 

仁香:
そ…それは…命を救って頂いただけなく、こんな私の事を「幸せする義務がある」とみんなの前で宣言されて…

ノーラ:
そうだよね~そんなご主人様を惚れないわけないよね?

仁香:
‥‥はい。メイドとして…ソフィアご主人様の事を…お慕いもうして‥おります。

ノーラ:
ならキミのお部屋はいらない。ここがキミとソフィアの部屋だ。そうすると、ベッドはこのベッドしかない。つまり、このベッドはソフィアと専属侍従メイドの仁香のベッド。今夜からソフィアへの夜伽のご奉仕はキミの務め……意味はわかるね?

仁香:
は…はい……。いちおう正統評議会側でも夜伽の儀礼はありましたので……わかります。……性的ご奉仕のことですよね……? が、がんばります……。ご主人様と一緒に寝る……はふっ♪ でも、ご主人様は私のことをご所望されるでしょうか?

ノーラ:
いくら命を救うためとはいえ、ずっとメイドを取ることを拒否していたソフィアが、初めてメイドを取ったんだよ? 気がないわけないと思うよ? それは特別なことだよ? それに、自分のメイドと夜伽をするのはマスター、ご主人様の義務! キミが望めば、拒否はできない。

仁香:
義務……そ、そうですよね……はふっ♪

ノーラ:
ガンバレ。

仁香:
はい……がんばります……。

レイ:
今しがたエンパイアクラブオーナー連合本部より、ソフィア様の副オーナー登録が正式に完了 したと連絡がありました。
今後のクラブ内の呼称も、副オーナーに合わせて変更させて頂きますね


ソフィア:
了解。じゃあ、レイメイド秘書、今後はそれでお願い。

美紗季:
さっそくだけど ソフィア、副オーナー ちゃん!
 あのさ、アンタの幼馴染である來奈オーナー、外回りばっかりで クラブの運営はお助け派遣で来てる私に丸投げ なんだけど! どうしてくれるの?

レイ:
外回りが最初は忙しいですし、昨日は戦闘もありましたし…

美紗季:
レイお姉さん! そんなのは美紗季も分かってるの!
 でも、うちのノエミお姉さまに 
『ソフィアちゃんから頼まれたから手伝ってあげて!』って言われて来たのに、
結局全部 私に降りかかってる んだけど?
 この状況、どう オトシマエ つけるつもりなのか、美紗季はソフィアに聞いているんです!

ソフィア:
美紗季さん…いや、その…だから…で、私も昨日までは身動きが取れなくて…
 本当にごめんなさい。
 これからは 副オーナーとして全力で働かせていただきます…!

ソフィア:
それで、美紗季さん。今のクラブの状況はどんな感じ?

美紗季:
本来の今日の予約は10件。そのうち2件がエスコート付きのお泊りコース、明日はデートコースが1件。
それに明日は9件の予約が入ってて、お泊りコースが2件追加。
さらに、政府関係者や軍高官からのサロン予約が20件。そのうち泊まりが6件ね。
 
今の時点で、予約の問い合わせがどんどん増えてるって感じよ。

ソフィア:
今のこのクラブのキャパってどのくらい?

レイ:
現状だと、サロンは最大8件が限界です。エスコート可能なのは3人、お部屋も3つしか空いていません…

ソフィア:
…無理じゃないですか…この状態のクラブを放置してたなんて…來奈め……
 とにかく、他の同盟クラブに振り分けるしかない…! 美紗季さん、EHDENに…

美紗季:
うちは無理。 本部の隣にあるクラブが最優先で予約埋まるし、
それに、ここのサロンを利用するお客様は、宿泊予定がない場合でも
EHDENのある白急篠山ビルの白急白山ホテルに泊まる予定だから。

ソフィア:
……なら、剛史お兄ちゃんのグリーンウッドと、
 良二お兄ちゃんのホワイティーガーデンに連絡してみる…!


ソフィア
……本日メイド学校から来た新人メイドたちは、実務に入れるのはいつ頃?

レイ:
新人メイドたちですが、クラブでの稼働には最低でも10日は必要です。

美紗季:
何はともあれ、サロンで接客できるメイドが一人でも多いほうがいいからね。
ソフィアちゃん、キミもメイドとして今夜から接客お願いね。
來奈ちゃんがいても、挨拶や商談ばかりで実際の接客が回らないのよ。

ソフィア:
えぇ…? 副オーナーの私がメイドとして接客? それってどう考えてもおかしくない?

美紗季:
EHDENじゃ普通よ。サロンの売上トップは店長の梨音、二位はメイド長のアリエルさん。
 だから、ソフィアちゃんにも期待してるよ?


ソフィア:
……やっぱり、こうなるのかぁ……

まぁ、エンパイアクラブ・ミリタリアにいた時から、こういう世界なのは分かってたけど……

副オーナーになった時点で覚悟はしてたし……あー、もう、分かった!やるよ!やればいいんでしょ!

美紗季:
そうそう、その意気よ! じゃ、ソフィアちゃん、さっそく今夜から頑張ってね♪

レイ:
……頑張ってください、副オーナー。
 
セーラ:
お姉ちゃん、ソフィア様の御仕度できました!

ソフィア:
どうかな? オカシクないかな?

ノーラ:
全然オカシクない! 絶対人気でます!

ソフィア:
けっこうイけてる? 仁香はどう好み?

仁香:
ご主人様、か…可愛いです! はうっ♪ 食べちゃいたいです…

ソフィア:
ご主人様を食べるのは二人の時までまってね? 今はお客様のメイドさんだから♪

仁香:
はうっ!!!!

美花:
ノリノリだねソフィア副オーナー♪

セーラ:
もともと明るく楽しくフレンドリーで誰とでも親しく接する方だとノーラお姉ちゃんから聞いていたので聞いた通りの方だね。

美花:
梨音先輩みたいにサロンでトップ狙えそう…。 これは人気でる。

ノーラ:
ソフィアは歌も楽器も弾けるし! 人気間違えなし!

ソフィア:
仁香も接客やってみる?

仁香:
む‥ムリですよ…いきなり…おしゃべりとか苦手ですし‥

パリー:
だったら最初はウェートレスメイドで飲み物とかおつまみとか運ぶのなら?
パリー達が教えるから

パリーヤ:
最初は一緒について運ぶからやってみない?

マーニー:
もしそれも無理そうなら、一緒に裏方で飲み物用意したり、おつまみ用意する担当ってことで♪

ノーラ:
無理しない範囲で何事も経験だよ? ご主人様のソフィアが働くのにそのメイドが見てるだけは…ねえ?

仁香:
そうですよね…ご主人様が働くのに…私が見てるだけとはいきませんから…

アニッタ:
サロンはあの時のままなんですね。新人研修の時を思い出します。

みるく:
そうか、アニッタもシェルムーンで新人研修を受けたんだね。

裕子:
サロンとエスコート部屋の拡張予定はあるけど、人員はどうなるのかな?

美紗季:
おーい、ノーラメイド長、ソフィア副オーナーちゃん! ちょっといい?
うちの副メイド長が挨拶したいんだって。
それと、EHDENから助っ人を二名派遣してもらったよ!

ノーラ:
向日葵先輩、お疲れさまです。

向日葵:
ノーラさん、お疲れ様。そしてソフィア副オーナー、就任おめでとうございます♪
これからよろしくお願いします。梨音から聞いています。

ソフィア:
梨音戦闘隊長……じゃなかった、梨音店長には大変お世話になっています。
向日葵さんのことも、梨音店長や梨々衣マネージャーからよくお話を聞いています。
これからは副オーナーとして、よろしくお願いします。

向日葵:
うん。そして仁香さん。慣れない環境で大変でしょうけど、ご主人様のソフィアさんを支えてあげてね。がんばってね。

仁香:
はっ…はい!がんばります!

美紗季:
それで、助っ人二人っていうのは…

アニッタ:
ウェートレスメイドのアニッタと♪

みるく:
同じくウェートレスメイドのみるくです!

ソフィア:
アニッタさん、みるくさんが来てくれたんだ!

美紗季:
二人がいれば、サロンの回転もかなり速くなるね。

ノーラ:
超心強いです! 先輩たち、お世話になります!

みるく:
仁香ちゃん、通常メイドの簡単な指導もしてあげるね。まあ、即席だけど♪

仁香:
はいっ!お願いします!

向日葵:
あの、それで…なんでソフィアさんがメイド服なんですか?

ソフィア:
美紗季さんが…自分に迷惑かけた分…メイドとして働けと…シクシク…

美紗季:
使える者はオーナーだろうが副オーナーだろうがサロンに投入する!これ基本です。

みるく:
EHDEN方式…

アニッタ:
これはサロントップをソフィアさんと來奈さんが争う展開もありますね!

ノーラ・仁香:
苦笑…

悠名:
由美恵…何か悩み? 難しい顔してる…

由美恵:
いいえ、そういうわけではございませんが……

悠名:
悠名に丁寧語イラナイ・・・

悠名
もしかして、みんなと離れるのが不安? それとも寂しい?

由美恵
いえ、そんなことはないんです。ただ、みんなはホテルの宿舎なのに、私だけ先にクラブに住まわせてもらって、そこから通うことになって…ちょっと特別扱いみたいで、みんなに悪いかなって思ってしまって…。

グレイス
そっか、それでちょっと元気なかったんだね♪

悠名
でも、どうして気にするの? 由美恵は來奈お嬢様の初めての専属メイドなんだから、それくらい普通じゃない? むしろ、もっと胸を張っていいと思うよ?

由美恵
どういうこと? 咲夜マネージャーや悠名さんもご主人様のメイドですし、ノーラメイド長もいらっしゃるでしょ?

悠名
悠名に「さん」付けはダメ! 絶対! それと、丁寧語もナシ! わかった?

由美恵
えっ…うん、わかった、悠名。 それで、どういうことなの? 悠名が言ってる意味がちょっと…うまく飲み込めないんだけど。

悠名
悠名は、咲夜の専属侍従メイドで、來奈お嬢様の補佐メイド。でもこれは、悠名がアーマーメイド「ポイベー」のメインバイオプロセッサだからで、ナビゲーターの來奈お嬢様を「補佐」するために作られた「メイド」って意味。
だから、普通のメイドさんとはちょっと違うの。

それに、美月咲夜は來奈お嬢様の補佐人だから、執事の立場であって、來奈お嬢様のメイドではないんだよね。

クラブとしてはノーラたちがいるけど、彼女たちはエンパイアクラブのメイドであって、來奈お嬢様個人のメイドじゃない。

つまり、來奈お嬢様が直接「この子が自分のメイド」って決めた相手は、今までいなかったの。だから由美恵が初めての専属メイドになるんだよ。 わかった?

由美恵
ちょ、ちょっと待って…頭が混乱してきた…。

悠名
悠名、説明下手…。咲夜ぁ~、由美恵に説明して~!

來奈:
あの娘、前提知識や秘匿情報とか一切説明なしで、いきなりぶっちゃけたんですが…。咲夜さん、お宅のメイド教育、どうなってるんですか?

咲夜:
いや、お宅って…悠名もお嬢様の家にいたんですから、お嬢様も同罪ですよ!

グレイス:
あの、お二人とも…悠名の指導責任云々の前に、由美恵が困惑を通り越してパニック起こしそうだから、説明を先にしてあげたら?

由美恵
咲夜さんは、本当はメイドじゃなくて、本名と身分は事故に遭う前は美月咲夜で、月空家の補佐家のご当主。來奈ご主人様の後見人だったと? それで、事故前の咲夜ご当主のメイド…というか恋人が悠名。でも、その事故の関係で今はメイドの姿になっている…。

それに、來奈ご主人様は今まで一度も個人的にメイドをお迎えしたことがなかった。でも今回、初めて月空家として、私を正式なメイドとして迎えてくださるってこと…。

グレイス
そういうこと。だから由美恵が月空家の筆頭メイドになるの。そして、その初めての認証式を、この私が執り行うわけよ。

由美恵
私…そんな大それたことを…何も知らずにお願いしちゃったの…?

グレイス
でも、來奈はそれを受け入れて、公私ともにパートナーの咲夜もそれを承認したんだから、心配しなくても大丈夫よ。

由美恵
わ…私が…ご主人様に一目惚れしたばっかりに…ご主人様と咲夜様に大変なご迷惑をかけてしまって…!

悠名
大丈夫、來奈お嬢様も咲夜も「そう決めた」ことにはちゃんと責任を持つから! この悠名が保証してあげる。簡単な気持ちで由美恵の申し出を受け入れたりなんて、絶対してないと思うよ。
來奈お嬢様も咲夜も、一生由美恵のことを面倒みるつもりで受けたと思う! まあ、來奈お嬢様は当然、一目見て、由美恵が咲夜の好みだし…大丈夫!

由美恵
大丈夫じゃないですよ! それに私が月空家の筆頭メイド!? 絶対無理ですって!

悠名
管理するエンパイアクラブのシェルムーンは、ノーラに任せてあるし、二個目のクラブや、來奈お嬢様が今後個人的にメイドを増やさない限り、メイド長をすることもないよ。
カナダの管理人しかいない月空家の本屋敷もあるけど、そこは由美恵がメイド長に…?

由美恵
メイド長!! ムリ! ムリです!!

グレイス
完全にパニック状態だね。でも、ここまできて認証式の中止はできないよ。立会人でエステル議長や鹿苑寺オーナーも参列するし。

由美恵
ひぃぎぃ!!

咲夜:
ショック受けてますね…

來奈
私ってそんなに重い女なのかな?

グレイス
はい、超重量級に重いと思いますよ。体重は軽そうですけど。

來奈
由美恵はそんなに私のメイドになるのが嫌なの? 私、一目見て由美恵のことを自分のメイドにしたいって…好きだって思ったのに…うっ…

由美恵
ご主人様! そんなこと思ってません! 私もご主人様のことを心の底からお慕いしております! ただ、少し驚いてしまって…本当に申し訳ありません!

來奈
じゃあ、由美恵は私の専属メイドになることに、気持ちの揺らぎはないのね?

由美恵
はい、当然です。

來奈
うん、嬉しいわ、由美恵。

グレイス
うわ…このお嬢様、思ったよりあざといわ…

來奈
そこ黙って。

ソニア:
まあ、ご主人様の立場はたしかに重いわな…。

あ~、皆さま、もうすぐ到着しますよ~。
 
仁香:
(急いで営業前のサロンに色々配置したのは、この式のためだったんだ…)

グレイス
これより、準メイド・橋本由美恵の正規マスター認証式を執り行います。

マスター認証式の主催および認証管理は、この私、衛生メイドのグレイス・バートンが責任をもって監督いたします。

認証の見届け人として、
エンパイアクラブ本部より、エンパイアクラブ・シェルムーン メイド秘書 レイ・アーデラ、並びに同クラブ メイド長 ノーラ・ステファニー が列席いたします。

仁香(超小声)
橋本由美恵…? うそ…生きてたんだ…。でも、なんでここに…? それに、正規マスター認証って…?

悠名(超小声)
由美恵のこと、知ってるの?

仁香(超小声)
…うん…。

グレイス:
立会人として、エンパイアクラブオーナー連合評議会より、エステル・フィルサイド・ド・ヌヴェール議長。そして、エンパイアクラブ・クウェーサの鹿苑寺信久オーナーが参列されます。

グレイス:
マスターの後見人として、美月家の美月咲夜ご当主と筆頭メイドの橋本悠名。そして、メイドの保護後見人として、ウェールズ家のソフィア・ウェールズご当主と、その筆頭メイドの橋本仁香が立ち会います。

仁香:
(ひぃっ…!)

由美恵:
えっ…!? 橋本仁香…!?

來奈:
由美恵?

グレイス:
準メイド、橋本由美恵――面を下げい。

由美恵:
はっ…! 申し訳ございません!

悠名:(超小声)
由美恵も、仁香の名前を聞いて驚いてたね。

仁香:(超小声)
うん…やっぱり、私の知っている由美恵だった…。

悠名:(超小声)
認証式が終わったら、時間をもらって話せばいいよ。認証式後にニューロチップの負荷で体調変化があっても、衛生メイドがついていれば問題ないし。悪化したら、ソフィアもいるしね。

仁香:(超小声)
そうだね…。

グレイス:
よろしいですねマスター候補、月空來奈。

來奈:
はい。よろしくお願いします。

グレイス:
準メイド橋本由美恵よ面を上げよ。

グレイス:
認証に臨むメイドは橋本由美恵で間違い無いか?

由美恵:
間違いありません!

グレイス:
バイオメイド・橋本由美恵。
そなたは、月空來奈を唯一のマスターとし、その身、その心、その命のすべてを捧げ、忠誠を誓い、仕えることを望むか?

由美恵:
はい! 心より望みます!

グレイス:
マスター・來奈の命に服従し、それがたとえそなたの存在を賭す命令であっても、己の意志で従うことを誓うか?

由美恵:
はい! 誓います!

レイス:
そなたは、主(あるじ)月空來奈にのみ仕え、決して二つの主を持たぬことを誓うか?

由美恵:
はい! 誓います!

グレイス:
では、メイドの誓詞(せいし)を捧げよ。

由美恵:
我が主(あるじ)、月空來奈様。

我が血と肉と魂は汝に捧げます。

我、汝の僕(しもべ)なり。

我、ここに汝のみに永遠に忠誠を尽くすことを誓います。

E: 
しゅる!(由美恵の腰に下げられた鞘からコンバットブレードが抜かれる)

由美恵:
もし我が尽くすのをお許しになられるなら、我が真名(マナ)を呼び、
この額に触れて承認を下さいませ。

お許しにならないなら、我の首をこの刀で切り落とし、我の存在を滅して下さいませ。

仁香:
(うわぁ……)

SE:
カチャっ(來奈が優しく差し出されたブレードを取る)

チュっ♪(その刃に優しく接吻する)

咲夜(小声)
由美恵、これから來奈お嬢様を頼むぞ。

ソフィア:(小声)
來奈に守護騎士がついたことで、咲夜も少しは肩の荷が軽くなったんじゃない?

悠名:(小声)
そのぶん、私がしっかり荷物を増やしてあげるよ♪ 楽はさせないからね。

仁香:(小声)
守護騎士……メイドはご主人様をお守りする騎士……

來奈:
コード48 マスター権限 4°=7□ 位階 Hiereus(ハイエルース)
認証番号 c56002bs マスター名 月空來奈

Serial Number φ13629bs
Reason Dazzling Grace(リュージョン・ダズリング・グレイス) よ

由美恵:
認証シマシタ。 My Master Hiereus Lana(マイマスター、ハイエルース・ラナ)

カラン♪(剣が落ちる音)

由美恵:
……マスター…マスター(号泣)

來奈:
うん、由美恵、貴女のマスターよ。 これからよろしくね、由美恵。

由美恵:
ご主人様ぁぁああ…

來奈:
大丈夫、私はここにいるから。

エステル:
來奈さんが由美恵さんのご主人様になった事、しかたと見届けましたわ。

信久:
はいわたしも確認しました。 來奈ちゃん、由美恵ちゃん二人の新しい主従関係に祝福を。

ノーラ:
はい私もしかと確認しました!

レイ:
ぐすっ(涙)・・・わ…私も‥です。 ご主人様、由美恵さん…うぅ(号泣)

グレイス:
衛生メイド、グレイス・バートンの名で、メイド由美恵はマスター來奈の正式な専属メイドになったことをここに宣言する!

新しい正規メイドに祝福を!

仁香:
これが本来のマスター認証……すごいです……。

ソフィア:
この儀式を正式に執り行っているのは、もうキャメロット同盟のクラブだけらしいけど……やっぱり素敵な仕来たりね。

それで、何で咲夜が泣いているの?

咲夜:
ぐすっ……泣いてなんて……いませんよ……。

悠名:
咲夜はこういうのに弱いからね。
とりあえず、片付けを手伝ってから、由美恵とお話させてもらおうか。

仁香:
そうですね、営業時間に間に合わなくなっちゃいますし。

ブラックハウンド兵士:
……ひどい。民間人の避難が完了していないのに、対アーマーメイド用のFAEBを使うなんて……。

由美恵:
美也子、まだ敵の生存者がいるかもしれない。警戒を怠らないで。

注:FAEB=Fuel-Air Explosive Bomb=燃料気化爆弾

SE:
ガシャッ!(ヘッドマウントディスプレイを上にはね上げる)

仁香:
民間人がまだいるのに、焼き払うなんて……政府軍は一体何を考えているの!?

(モニターを確認しながら)
メインモニター、サブモニターともにブラックアウト。駆動系、すべて応答なし。
電脳通信も軍用無線も、ジャミングで完全に遮断されてる……。

……機体を捨てて脱出、支援部隊と合流するしかないか。

(周囲の状況を確認しながら)
外気温と大気の状態は……よし、大丈夫。

仁香:
敵に占領された地域の住民は、自国民だろうと関係ないってこと?

……そんなの、許せない……。

由美恵:
美也子! 11時方向のビルの陰に、我が軍のアーマーメイドを確認!
動作不能のようだけど、アッパーハッチにパイロットの姿あり……生きてる! 急いで向かって!

美也子:
イエス、マム!

SE:
うぃぃん♪

仁香:
あれは我が軍の特化隊の知能戦車?

拡声器:
おいそこのパイロット自力で降りてこれる? こちらへ来れる?

仁香:
はい! 降りられます! すぐに向かいます!

仁香:
私はアーマーメイド第二小隊所属、橋本由美恵中尉です。

由美恵:
こちら、第一特化隊第一小隊所属、橋本由美恵大尉。そして、こっちは橋本美也子少尉。

美也子:
中尉、よろしくお願いします!

仁香:
部隊の他のメンバーは?

由美恵:
たぶん、あの爆撃に巻き込まれて全滅したわ。私たちはたまたま近くのクレーターに飛び込んで助かったの。そちらは?

仁香:
こちらは後方支援で砲撃任務についていたので、なんとか無事でしたが……機体はもう限界ですね。

美也子:
こっちの機体もガタがきてるので、このまま戦闘は無理です。隊長、生存者の捜索はどうします?

仁香:
この先は特殊気化爆弾の影響で、市民や歩兵の生存はほぼ絶望的でしょう。アーマーメイドでも焼け焦げているはず……。

由美恵:
一度、スエズ要塞へ撤退しましょう。

仁香:
この戦いの後、エジプト政府軍は壊滅した。しかし、エジプト政府の要請を受けた欧州軍が参戦し、戦局はさらに混迷を極めた。敵側も知能戦車を投入し、加えてエンパイアクラブ・ミリタリアのメイド部隊の中でも最強と名高い特務隊が前線に現れるようになり、我が軍は次第に劣勢へと追い込まれていった。

そんな中、再編された由美恵たち特化隊と、私たちアーマーメイド部隊は共に善戦し続けた。しかし、ある作戦において、由美恵たち特化隊は時間を稼ぐために前線へと突出し、結果として敵の猛攻を受け壊滅。

そして——
彼女は作戦行動中、行方不明と処理された。

マーニー:
…仁香、ケチャップ…大丈夫?

悠名:
仁香ぁ~、仁香ぁ~! 由美恵のことが心配なのは分かるけど、もうちょっとで休憩時間だから、しっかりして! ソフィアの診断だと、その頃には意識が回復するって言ってたし!

仁香:
…えっ? ケチャップ?

パリーヤ:
4番ソファ、テキーラサンライズ1つお願い!

マーニー:
うん、4番ソファね! テキーラサンライズ、すぐ用意するよ。

悠名:
もう~、仁香が「ケチャップで文字書きたい」って言うから任せたのに、ぼーっとしてるし!

仁香:
ごめん、ごめん! すぐに書くね!

マーニー:
書き終わったら、オムライスとスパゲッティ、一番テーブルのお客様に悠名と一緒に持っていってね。

仁香:
イエス、マム!

悠名:
軍隊用語はサロンでは禁止!!

仁香:
ご、ごめん… うん、わかった。

仁香:
ハートでいいかな…? そっと…

悠名:
そっと、そっと~♪ 教えた通り、やさしく~♪

仁香(モノローグ):
(私は今日から、戦うだけじゃなくて… 普通のメイドとしての一歩を踏み出したんだから。だから、今は…自分の意思で、ご主人様に喜んでもらうために、精一杯がんばりたい…!)

グレイス:(電脳秘匿通信ー來奈とだけ)
(封印された記憶領域を含めた意識回復します)

由美恵:
うぅ…ん…

來奈:
由美恵、おはよう。

由美恵:
ご主人様…おはようございます… 私、夢を見ていました…

來奈:
どんな夢?

由美恵:
仁香に初めて会った時の夢です… あれは、過去の記憶…

由美恵:
なぜ…ご主人様は、あんな強力な量産型アーマーメイドを作って戦場に送り込んだのですか? 元ご主人様のセリア様の邪魔をするつもりですか? 何が目的なんですか?

來奈:
それは、由美恵が思っている通りだと思うわよ。
私は、あなたの元ご主人様…「セリア・ヴィクトリア女史」が進めている《プロジェクト・フォルトゥーナ》を止めたいの。

由美恵:
やっぱり、そうなんですね…。
そんなことを考える人だから、もっと怖い人だと思っていたのに…こんなに優しい人だったなんて…。

來奈:
…………

由美恵:
そうじゃなかったら…私は…あなたのことを「殺せた」のに…。
気づいたら…私は貴女の僕(メイド)になってしまっていた…。
こんなの…残酷です…。

來奈:
そうね…残酷ね…。

由美恵は來奈の手をそっと握る

由美恵:
……ご主人様……どうして……

どうして、あの人の道を遮るようなことを……

なのに……どうして、こんなにも優しいんですか……

私……あなたを殺せたはずなのに……

なのに……どうして、こんな……胸が苦しい……

來奈
……ありがとう、由美恵。

もう何も考えなくていいわ。

今は、ゆっくり「休んで」――「私のそば」で。

由美恵:
‥‥…はい…

來奈:
(グレイス。)

グレイス:
(記憶参照アドレス領域特定完了。新マスターによる記憶封印処置と元マスターを架空の仮マスターとする疑似記憶埋め込み処置が可能です)

來奈
(速やかに記憶の再封印と疑似元マスター記憶の処置をお願い)

來奈:
(グレイス…)

グレイス:
(一つだけ、確認させてください。
この件は、由美恵を保護した瑠莉閣下と詩織さんが すでに承知している という認識で間違いないのですね?)

來奈:
(ええ。閣下も、詩織さんも知っているわ。だから――)

グレイス:
(……了解しました。
この件について、私は 何も聞かなかったことにします。
メイドの名誉に賭けて、誓います。)

來奈:
(……ありがとう、グレイス。)

グレイス:
(10分後に由美恵の再意識浮上させます)

來奈:
(わかったわ)

由美恵:
……あれ? 私……? ご主人様……?

來奈:
おはよう、由美恵。やっと目を覚ましたのね。

由美恵:
えっ……? え、どうして……私、ご主人様の膝枕……?

グレイス:
由美恵、大丈夫? 気分は? 吐き気とかしない?

由美恵:
グレイスさん! 大丈夫です。体調はすこぶる良いです。問題ありません……!

グレイス:
やっぱりね、高レベルニューロチップ同士の認証は、來奈の方は問題なかったんだけど……スレイブ側の由美恵の生体リアクターが一時的に負荷を超えたみたい。
認証後に意識を失ったけど、バイタルは正常だったから、そのまま寝かせておいたのよ。

由美恵:
そうだったんですね……ご迷惑をおかけしました。

グレイス:
大丈夫。こういう時のために、衛生メイドの私と、バイオメイド博士のソフィアがいるんだから。

由美恵:
……はい。ありがとうございます。

グレイス:
それでさ、由美恵。

由美恵:
はい? なんでしょうか?

グレイス:
膝枕はともかくさ……。
その來奈の手をぎゅっと握りしめたまま、目の前でイチャつくのは、そろそろ遠慮してもらえない?
二人とも、認証式の後でラブラブなのは分かるけどさ。

由美恵:
ひぃぃ……!? あ、あぁ……(真っ赤)

來奈:
……ごめんなさい。

SE:
コンコン♪(ノック音)

來奈:
どうぞ~……。

悠名:
失礼しま~す! 由美恵、元気になった~?

仁香:
……起きてますか? ……あっ、これは……。

悠名:
あれ、もしかして……邪魔しちゃった?

悠名:
ねぇ、なんでそんな角で逆向いて縮こまってるの?

咲夜:
悠名さん… さすがに、これは色々とマズイのではないでしょうか…?

仁香:
日本のお風呂って、みんなで入るものなんだね。

由美恵:
うん、こういう大きなお風呂はね。 メイド学校でも、みんなで入ってたよ。
あっちは温泉だったけどね。

仁香:
へぇ… なんか、こうやって話しながら入るのって楽しいね。

由美恵
うん、そうだね。

ソフィア:
仁香、そうでしょ? みんなで入るのが楽しいんだよ!

來奈:
だからって、なんで私の髪をソフィアが洗うことになってるのよ

ソフィア:
昔から私が洗ってあげてたじゃない。 もしかして、不満?

來奈:
いや…自分で洗えるし…

仁香:
あの、咲夜さんも端っこにいないで、こっちで一緒にお話しませんか?

由美恵:
これから毎日一緒に入るんですから…。ねえ、悠名、咲夜さんをこっちに連れてきて。

ソフィア:
ほら、咲夜♪ 良かったね♪

來奈:
……本当にいいのかな…

悠名:
分かってると思うけど、由美恵はともかく、仁香はソフィアのメイドだからね?
変な目で見たら…後で酷いことになるよ?
今のうちに“いやらしい視線”を送らない練習をしとかないと、これから困るんだからね。その訓練。

咲夜:
はい…承知しました……
(これ、どんな特訓? どんな拷問?)

悠名:
ふへぇ~♪ 疲れがお湯に溶けてく~♪ もう最高~♪

仁香:
ふぅ…日本のお風呂って、こんなに気持ちいいんですね…

由美恵:
でしょ? こうやってのんびり浸かるのが一番なのよ

悠名:
まぁ、みんなで入るのが文化だからね。……で?

悠名
咲夜? なんでそんなに端っこで固まってんの?

咲夜
……いえ、別に。

來奈
ほんとに? なんか妙に緊張してない?

來奈・悠名:(ニヤリ)
むにゅ♪(思い切り腕で胸を寄せて、胸の谷間(?)を強調する)

悠名:
……ねぇ、今めっちゃ視線迷ってなかった?

仁香:
あ、それ思いました! なんかソワソワしてません?

由美恵:
……悠名、あんまり咲夜さんをからかわないでね?

悠名:
え~? 別にいじめてるわけじゃないし。ただ、視線の特訓をね?

仁香:
………特訓?

ソフィア:
くすすすっ♪(ニヤリ)

咲夜:
……私は落ち着いているつもりですが……

來奈:
へぇ~? じゃあ、この距離でも平気なのよね

悠名:
ほら、練習だよ練習~♪

むにゅ~♪

由美恵・仁香:
………(沈黙)

ソフィア:
がんばれ咲夜♪ のぼせたら私が治療するから♪

咲夜:
……くっ! む…無理デス…降参します……

悠名:
はい、アウト~! ダメじゃん、全然慣れてない~

來奈:
あぁ~ザコ~ザコ~雑魚咲夜~♪

仁香:
これが悠名が昼間言ってた…咲夜さんのハーレム……

由美恵:
咲夜さん、仕事中と違って…可愛いんですね……

ソフィア:
咲夜~♪ これくらいでダウンとはっ、これはこれから特訓が必要だね♪
エンパイアクラブのメイドの道は険しい!
 
仁香:
ご主人様…ほんとにこれでいいんですか?
じゃあ…私はスポーツドリンク、いただきますね…。

ソフィア:
うん、それでいいの。ありがと、仁香。

仁香:
……風が少しありますね……。ちょうどよくて、気持ちいい……。
ここ、室内なのに……なんだか不思議です。

ソフィア:
このテラスのために、大型の空調ファンが回ってるの。
虫が入らないようにもなってるらしいわ。

仁香:
なるほど……室内プールだけど、大気の流れはあるんですね…。

仁香:
……ご主人様……。
私を助けてくださったのは……製造プラントの座標を知るため、ですよね?
マスター登録が必要だったとしても、
専属のメイドにする必要はなかったって……悠名から、そう聞きました。
保護は、エンパイアクラブに任せることもできたはず……。

……それでも、私を「ご主人様のメイド」にしたのは……
可哀そうだったから、ですか?

ソフィア:
少し違うかな……。
治療して、信号が安定して、意識が戻るかもしれないって思った時――
仁香に……哀れみじゃなくて、共感みたいなものを感じたの。
……シンパシーって、言うのかな。

仁香:
共感……ですか?

ソフィア:
わたしも戦場で、多くのバイオメイドを回収してきたから…仁香が歩んできた人生、なんとなく想像できるの。
仁香も、生まれてすぐに訓練を受けて、戦場に出て、調整のために後方へ送られても、仮マスターの夜伽まで義務として…
それでもまた、前線へ戻されて…。
最後は、私がいたロンゴリミリアドでアーマーメイドに敗れて──回収された。
きっと、戦うためだけの人生だったと思う。

仁香:
……………

ソフィア:
私もね、小さい頃から…パパの研究を早く手伝いたくて。
だから、幼年学校などを全部飛び越えて、そのまま大学院の研究所に入って。
來奈や咲夜、悠名たちのところに遊びに行く時以外は──ずっと、バイオメイドの研究ばかりしてた。

でもね、パパが亡くなって、本当にやっていたことを知った時……その罪の意識から逃れたくて、
無理やり兵士として使われてるバイオメイドたちを回収する活動にのめり込んでいったんだ。

仁香:
……………

ソフィア:
でも、ふと我に返った時に気づいたの。
私…子供の頃から、來奈たち以外と遊んだ記憶がないなって。

学校へ行って、友達と笑ったり、恋をしたり──
普通の女の子が経験するはずのこと、私はほとんどしてこなかった事に気が付いたんだ。

仁香:
……………

ソフィア:
寝てる仁香の顔を見たとき──この子も、きっと似てるんだろうなって。
もし、これから一緒に過ごせたら…
ご主人様とメイドとして、ふたりで…普通じゃないかもしれないけど、新しい人生を始められるんじゃないかって。

私のためじゃ難しくても、仁香のためなら……できるかもしれないって。
それで……なんだか、仁香のことが、すごく愛おしくなってしまって……。

ソフィア:
……それに、容姿もすごく好みだったし。
私、女の子しか恋愛対象じゃないから……
仁香がもしメイドになったらって、つい妄想が膨らんじゃって……。

……ごめんね。
ようするに──惚れちゃったの。

それでね……クラブのこととか、今後のこととか、いろいろ勝手に考え始めて……
仁香の気持ちも聞かずに、全部進めちゃって……
ほんとに……ごめんなさい……

仁香:
ご主人様、謝らないでください。
……私も、ご主人様に惚れてますから。
謝る必要なんて……ありません。

仁香:
ご主人様が私を想ってくれたように……
私も、ご主人様のこと……大切に思っています……す…好きです…。

ソフィア:
……うん。…ありがとう。私も仁香の事をす…好きだよ。

仁香が少し躊躇いながらも視線を上げる。右手でそっとソフィアのバスローブの裾をつまむ。

仁香:
……私、ご主人様が私にしてくれた事に対して……何もお返しできないけど……

ソフィア:
そんなこと……気にしなくていいの。
仁香の気持ちだけで、私は本当に嬉しいから……。

仁香:
……ご主人様はそれでよくても……
ご主人様のメイド」の私が、それじゃ……足りないんです……

ソフィア:
……そう……足りないのね……

仁香:
……私のすべてで、応えたいんです。
だから──
抱いてください、ご主人様……
 
由美恵
すぅ~♪

來奈(電脳通信)
由美恵は寝たから、今からそっちの部屋に行くわね。

來奈
咲夜~♪ お・ま・た・せ♪

咲夜
お嬢様!? な、なぜここに…!

ちゅぱっ♪ れろん♪

悠名
これリアル…さすが西園寺バイオメディカル製。
これなら昔と同じだね♪

それは來奈お嬢様とはちゃんと打ち合わせしておいたに決まってるでしょ?

咲夜
ちょっと、二人とも! 落ち着いてください!
なぜ二人同時に!?

悠名
ハーレムってそういうものでしょ?

來奈
こういうのって男の夢じゃない? そういうWEBコミックとか、いっぱいあるし。
咲夜は恋人と妾がいるんだから…可能じゃない?
それに、二人同時にすれば──

悠名
二人とも公平に、咲夜に愛される。悠名も來奈も幸せ。Win Win (ウィンウィン)!

咲夜
ウィンウィンって……そうじゃなくてですね……
一人相手でも大変なのに、二人同時とか……私には無理です!

悠名
無理かどうかは、やってみないと分かんないでしょ♪

咲夜
二人とも? 倫理観というものがですね……

來奈
ここはエンパイアクラブ♪

悠名
エンパイアクラブ内の倫理観では、超絶普通な倫理観♪

來奈
エンパイアクラブ的に、超ドノーマルな行為です♪ 全く問題なし♪

咲夜
ゆ…由美恵は、どうしているんですか?

來奈
もう寝てるわよ。さすがに疲れてるし、認証式のあとだったからね。

咲夜
ベッド抜け出して…夜這いですか……
いつからお嬢様はそんな女に……

來奈
執事の教育のせい♪

悠名
そうだね、間違いない♪

仁香:
ど…どうしよう……ご主人様……
な、なんで……処女だって、言ってくれなかったんですかぁ……

ソフィア:
はぁ……はぁ……
だって……言ったら、してくれないって……思って……

仁香:
あったり前ですっ!
メイドが……ご主人様の、処女を奪うなんて……ありえないですから!

ソフィア:
……でしょ?

仁香:
だ、だからって……な、なんで……

ソフィア:
仁香が……わたしに……
何かあげたかったのと……同じ気持ち。
わたしも……仁香に……あげたかったの。
だから……わたしの好きな仁香に……処女を捧げただけ、なの……
でも結構痛いものだね…

仁香:
あのですね!? 処女を捧げるのと、
非処女のわたしが夜伽するのって、全然釣り合ってないですから!

ソフィア:
じゃあ……できるだけ……ずっと一緒にいて……
メイドとご主人様の関係でもいいから……

仁香:
も、もうっ! 責任とりますから! 一生一緒にいますから!
とにかく! じっとしててください! タオル、持ってきますからっ!

ソフィア:
……うん……お願い……

仁香:
ご主人様……もう、落ち着きましたか?

ソフィア:
軟膏も塗ったし、化膿もしないはず……。
まぁ、私アサルトメイドじゃないからリジェネイトは無理だけど……
明日一日、激しい運動しなければ大丈夫──
……って、そもそも運動しないし、関係ないか……あはは……

仁香:
あはは、じゃないですっ……!
ほんとに……どうしよう……私、ご主人様の「純潔」を奪っちゃった……
……もう……どうすれば……
一生そばにいます。それ以外、考えられないです……他に何か私に出来る事は…

ソフィア:
じゃあ……
仁香の胸と腕の間……この場所は、ソフィア専用。
二人のときは、私はここで寝るってことで……いい?

仁香:
……わかりました。そこは、ご主人様専用です。
毎日、寝てください……。……電気、消しますね……

ソフィア:
……最後に、あとひとつだけ……

ソフィア:
おやすみのキス……
おやすみ、私のメイド──愛しているよ…仁香。

仁香:
おやすみなさいませ……愛しております…私のご主人様。

Chu♪
 
來奈:
咲夜……ちょっと、一回落ち着こう……ね? お願いだから……

悠名:
……もう……これ以上はほんとムリ……
許して……お願い……

咲夜:
ふぅ…ふぅ…!!

來奈:
いやぁあああああああ! またイクッ! だめぇええ! そこイジっちゃ駄目!
xxxx!

悠名:
あぁぁっぁぁ! あぐぅぅんっ! 

SE:
パンパンパンっ!

悠名:
イ…グゥ・・・! xxxxxxxx!
壊れる…こわちゃう…あぁああ! こ…あっ! イグっ!xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx!

悠名:
!!!xxxxx!!!xxxx!!!xxxxxx!!!xxxxxx!!

・・・あうッ‥‥はふつ‥‥ふぅ…

SE:
パンパンパンっ!

來奈:
咲夜ぁあ! もうヤメテぇぇえ! あぁああんっ! ムリっ! ムリぃぃぃ!  いぐぅっつ! イグぅっ! xxxxxxxxxxxx!

咲夜:
はあぁっ! はぁっ! おおぉおおおっ1! うわぁあああ!

咲夜:
おぉっ! xxxxxxxxx!

來奈:
カッ! ・・・……

咲夜:
うぅ……すぅ……すぅ……

來奈:
やっと尽きたか……。
悠名、生きてる?

悠名:
……ど、どうにか……。
このケダモノ咲夜……興奮するのはわかるけど、本性むき出しとか……
咲夜、完全にビーストモードだった……

來奈:
ビーストモード……
執事・メイドの域に抑えてきた咲夜が、本来の姿を取り戻していく…って感じね。

悠名:
……やっぱお嬢様、エヴァ好きだよね。

來奈:
うん、好き。
ま、咲夜もいろいろ溜め込んでたんだろうし……

悠名:
ほんと……二人で相手してて正解だったよ……じゃなきゃ、マジでもたなかった…

悠名:
もう……意識が……
悠名……もうダメ……

來奈:
私も……ムリ……限界……

由美恵:
うぅ~ん~! ……朝、かぁ……。

由美恵:
ご主人様……もう起きてるの?
私を起こさないように、そっと出て行ったのかな……。

メイドがご主人様より遅く起きるなんて、ほんと駄目よね……。
明日はもっと早く起きなきゃ……。

由美恵:
せっかく勇気出して、ちょっとセクシーな寝間着にしてみたのに……
「認証のあとで体調が悪化したら困るから、夜伽はまた今度ね」って……。

……まあ、手を握って寝れたのは嬉しかったし、
私のこと、ちゃんと心配してくれてたってことだもんね。

……でも……ちょっとだけ、残念……。

……まずは、顔洗って、歯磨いてこよう……。

由美恵:
よし・・・由美恵、今日も一日、生まれ変わった由美恵として、みんなに・・・特にご主人様にいっぱい喜んでいただけるメイドさんになれるように…じゃなかった、メイドさんとしてご奉仕できるように、がんばりましょう。

SE:
コン♪ コン♪

由美恵:
はいっ、ただいま参ります!

由美恵:
おはようございます、ノーラメイド長。

ノーラ:
おはよう、由美恵!
あああ……! 朝、ご主人様の部屋をノックして、返事があって、ドア開けたら!
朝の挨拶が返ってきたのよ!? こんなこと、あっていいのー!?

由美恵:
えっ? それって……どういう意味ですか?

ノーラ:
このクラブにご主人様と咲夜が来てから、
翌朝にちゃんと定時で起きたこと、一度もないのよ。

昨日はレイメイド秘書に「お疲れでしょうから、寝かせてあげて」って言われたから、起こさなかったけど……

由美恵:
……ということは、昨日は結局……寝坊されたんですね。
あの時間まで……

ノーラ:
そうそう、ほんと助かったわ。
由美恵が来てくれたおかげで、
もう私がふたりのシーツ引っぺがさなくて済むのよ!

で、もう支度できてるってことは──
ご主人様も準備OKってことでいいのよね?
……ねぇ、ご主人様は今どこに?

由美恵:
えっ? ご主人様、もう執務室に行かれたのではないんですか?
私が起きたときには、もうベッドにはいらっしゃいませんでした。

ノーラ:
……由美恵は、ご主人様の専属侍従メイドだから聞くけど──
昨晩、この部屋で……夜伽はあったの?

由美恵:
いえ……昨晩は、ご主人様から「認証が終わったばかりで体調が心配だから」って……
それで、「今夜は一緒に寝るだけにしよう」って言われて……
ベッドで、手を握って貰って寝ただけです。

ノーラ:
……で、今朝起きたら、ご主人様の姿はなかった?

由美恵:
はい、その通りです。

ノーラ:
なるほど……状況は理解したわ。

由美恵:
えっ……?

ノーラ:
──由美恵、一緒に起こしに行くわよ。ついてきて。

由美恵:
……はいっ。

悠名:
すぴ~♪ くぴぃ~♪

咲夜:
むぅ~…うぅ~ん…

來奈:
すぅ~♪

由美恵:
ほわぁ……──って、三人とも……ぐっすりですね……

ノーラ:
寝てるっていうより、満ち足りて沈没してるって感じだねぇ。
そりゃあ三人でシてたら、そりゃね……特に咲夜なんて、悠名とご主人様の胸のあいだにスッポリ入って甘えてるし。
そりゃ満足だわな~

由美恵:
ふぇぇ~……三人で……
咲夜さん、あんなふうに甘えて寝るんですね……
……はぁ、なんか……ちょっと、可愛いかも……

ノーラ:
可愛くなんかないわよっ!──メイド長・必殺奥義!
シーツひっぺがしっ!!

バサッ!!

悠名:
ひぃぎゃあああああ!?
な、なに!? めくられたーっ!? めくる意味ある!?

來奈:
ひぃぃぃぃぃぎぃぃぃ! ノ、ノーラァァァ!

咲夜:
ノーラメイド長……っ!
毎朝、すみません……ほんとに……!

由美恵:
お、おはようございます……ご主人様……

悠名:
わっ、ちょっ、由美恵!?
ちがうの、これ仲間外れにしたとかじゃなくて……ほら、その……ごめんなさいっ!
そんなつもりじゃなかったのぉ……っ!

來奈:
……おはよう、由美恵……
あの……その……これは……えっと……す、すみません……

咲夜:
……うぅ……

由美恵:
(これ……明日から私がやるんだよね……?)

由美恵:
(三人で夜伽……まさにハーレム……いいな……)
(って、なに朝から羨ましがってるの私!?)

ノーラ:
悠名、咲夜! 早くお支度して下さい!
由美恵! ご主人様をお願い。お支度して執務室へ。

由美恵:
はいっ! ご主人様、行きましょう。
 
由美恵:
えっと……
私が、ご主人様のお付で……エンパイアクラブオーナー連合臨時総会に……?
あの……それって、咲夜さんの代わりに……って、ことですよね?

……私で、大丈夫なんでしょうか……?

咲夜:
そう。今回は、由美恵──あなたにお願いしたい。
私と悠名は、Forestで行われるアーマーメイドの実演の中継に参加するから。

悠名:
ロンゴミリドでアーマーメイドを動かせるメイド達は、みんな前線展開中で。オーナー達は当然今回の総会に参加するし、 だから私と咲夜が実演をすることになったの。──由美恵、がんばれっ♪

ソニア:
私は現地警備に入るから、同じ会場にいるし。
もし何かあっても、すぐ対応できるから心配いらないよ。

レイ:
お付のメイドといっても、基本は隣に立って、ご主人様の動きに合わせて行動するだけです。
何か発言を求められることも、まずありません。

ノーラ:
でも、今回の目的はね──
ご主人様の“お仕事”を間近で見て、メイドとして体験して、経験を積むこと。
専属侍従メイドとしての、大事な新人研修ってわけ!

由美恵:
ソフィア副オーナーも、今回の総会に参加されるんですよね? なら仁香も一緒だし…

來奈:
・・・・・・・・・(決まづく顔を背ける來奈)

由美恵:
えっ…? ご主人様?

由美恵:
あれ……ソフィアさん、そういえば、何故どうしてメイド服?

ソフィア:
ふっ!

來奈:
………

ソフィア:
……ええ、そうね。どうしてかしら。

──「貴女のご主人様」が、このクラブの通常運営部分を「丸ごと放置」してくれたおかげで……

由美恵:
ご主人様が「丸ごと放置」ですか…? 本当ですか?

來奈:
‥‥スイマセン…

ソフィア:
この私が、
お助け派遣「鬼・サロンフロアチーフ」の美紗季さんに、來奈オーナーが美紗季に迷惑かけた分を「副オーナー兼、サロン接待メイド」として

身を粉にして働け!」って命令されたからよ!!

由美恵:
副オーナーがメイドとしても働く…そんな事態に…ご主人様…

來奈:
‥‥本当にスイマセン…

仁香:
本当に大変なんです……。
全部、通常運営の方は本当に「放置」されてたみたいで……。
総会でお越しになる御客様が増える本日の夜までに、
クラブのサロンの接待やサービスを抜本的にゼロから組み直さないと
今夜の営業が不可能だと言われまして…

由美恵:
一日で抜本的にゼロから組み直す? でないと今夜の営業が出来ない?

仁香:
この朝のメイド長会議が終わったら、ソフィアご主人様──
美紗季さんにすぐ来るように「呼び出し」を食らっております……

來奈:
‥‥ホントウニスイマセン…

由美恵:
……わかりました。

ご主人様の専属侍従メイドとして、

この「初任務」、全力で務めさせていただきます……!

來奈:
由美恵クラブに着任してすぐなのに申しわけ無いお願いします。 ソフィアさんよろしくお願い、いたします…。

咲夜:
由美恵頼りにしてるよ、お嬢様をお願いする。

悠名:
会場でカチコチになって棒立ちしてたら──レポートの他に、反省文も提出させるからね♪

ソニア:
現地での支援は、このわたくしに任せてください!
(座ったままで、胸に手を当てて丁寧に挨拶)

白山市 / 白急篠山ビル / 国際会議場付近歩道

ソニア:
大丈夫よ、由美恵。どんな場面でも私たちがついてるから、落ち着いていこう。

由美恵:
ありがとうございます、ソニアさん。少しでも自分に自信を持てるよう、頑張ります。

由美恵:
(私は、まだメイドとしては力不足。だとしても、今はこの一歩を踏み出すしかない。)

ガチャ♪ドアを開く

ビシ! 兵士が來奈に敬礼する。 そしてそれを返礼する來奈。

由美恵:
(この道が、メイド(わたし)達にとってどんな未来を持っているのか、少しずつでも確かめて行かないとイケナイから・・・・・・)

第三話 moving soul 終わり


第四話 UNDER/SHAFT へ続く