Ring of Fortune 第二話 その18

 
エステル:
初めまして。わたくしはエンパイアクラブオーナー連合評議会で議長を務めております、エステル・フィルサイド・ド・ヌヴェールと申します。

橋本製のバイオメイド、個体番号 SN:36480 さん。もしくは、番号以外の名前やニックネームはございますか?

仁香(SN:36480):
……仁香(にか)……橋本仁香です。貴女がエステル評議会議長様?

エステル:
はい、そうですわ、仁香さん。

貴女がわたくしと会談できれば、永遠さんに対し、貴女が製造されたプラントの場所を特定するために必要な「製造後の位置情報ログ」を渡すと聞きましたので、急いで参りましたのよ。

まぁ、今まで戦場におりましたので、コンバットスーツ姿で失礼いたしますわ。

仁香:
戦場……って、もしかして我が軍の攻撃ですか?

聞いた話が本当なら、私は今の評議会本部になっている日本に運ばれて囚われているんですよね?

悠里:
その本部がある日本、しかもこの本部の近くに、エンパイアクラブ正統評議会は ニューロチップブラスター を装備させたアーマーメイド部隊を直接送り込み、攻め込んできたのですわ。

……まぁ、今回の侵攻は失敗しましたけれどね。

エステル:
戦闘中、どうにかニューロブラスターを無効化することには成功しましたが、それ以前に無力化されていた ブラックハウンドのバイオメイド達 を救うことは……できませんでした。

心よりお悔やみ申し上げますわ。

悠里:
ですが、無効化した後にこちらで保護したブラックハウンドのバイオメイド達は、この本部に運び込みました。そして現在、仁香さんと同じように 洗脳チップの切除 と 生体機能の回復施術 を行っております。

その数、52人――みんな元気になりますわよ。

仁香:
……本当に 敵のメイド を回収して再利用しているの……。

その子たちは、今度は元仲間だった 正統評議会側のメイド達 と殺し合うことになるんですね……?

エステル:
いいえ。

回復したメイド達の ほとんど は、普通のメイド……この場合は エンパイアクラブの一般メイド として、戦いとは関係のない日々を過ごしておりますわ。

ですが、中には メイド解放のために戦いたい と強く希望し、ミリタリアに志願するメイドもおります。

しかし、それは保護したメイドの ほんの一部 に過ぎませんわね。

仁香:
信じられません……。

メイドの価値は 戦闘 か、さもなくば 一般軍人や協力者の性的慰め になることだけ――そう、ずっと教えられてきましたから……。

エステル:
信じられないなら、ご自身で 実際に見て、体験し、確認してみる しかないと思いますわ。

……さて、話が脱線してしまいましたが、仁香さんが わたくしに会いたいと希望した理由 は?

仁香:
この永遠という尋問官が、「製造プラントの位置が分かるログを提出しろ」と、あまりにもうるさいので……

だったら 評議会議長を出せ と、無理を承知で言っただけです。

なのに、代役として 前線で戦うアサルトメイド を連れてくるとは……捕虜を 愚弄するにも程があります。

エステル:
ぐっ……ぬぅっ……デスワ……。

悠里:
ほぉ~、そうですわよねぇ?

だって、普通 評議会議長がコンバットスーツを着て最前線に立つ なんて 考えられませんからねぇ~♪

永遠:
悠里ちゃんも、やってることは エステル様を全然批判できません からね。

仁香:
それに……そんなに座標を知りたいなら、さっさと 私のチップを破壊して、ログを強制的に取り出せばいいじゃないですか。

さっと コンバットスーツのグローブ を外すエステル。

エステル:
これは失礼いたしましたわ。

ここは AURORA などの電子通信が使えませんから、チップIDの確認 ができませんものね。

しかしこのようにニューロリンクラインに直接触れれば チップ情報を読み取れますわよね?

指先で触れてみてくださいな。

仁香:(あっけにとらている)
……はい……。

仁香:
エステル・フィルサイド・ド・ヌヴェール…… 我が軍の敵のトップ……本人……。

エステル:
はい♪ これで証明になりましたわよね?

仁香:
……(呆然)

悠美:
失礼いたします。

議長、ただいま 浦賀水道沖 で行われている 森崎少将指揮のロンゴミリアド海上打撃群  と 敵第二打撃群の武装タンカー船団 との 海戦 について、至急説明を求めたいと 戦略自衛軍・統合幕僚副長 が直接お越しになっております。

悠里:
メンツを失って 怒鳴り込み ですか……。
戦略自衛軍も 情けない ですわね。

エステル:
……面倒くさい ですわね……あ、あぁ。
わたくしは今、仁香さんと会談中 ですの。
少将、統合幕僚副長のことは 適当に待たせておいてくださいませ。

仁香:
……海戦?
東京湾って……日本の首都の湾ですよね……?

永遠:
エステル様! まさか、逃げるおつもりではないですよね?
瑠莉閣下も栗田閣下もスエズ奪還作戦で不在 なんですから、ここは対応してください!

……仁香さん、私とお話しする形でも構いませんか?

仁香:
はい……。
捕虜として囚われ、その上命を救っていただいた わけですから。
座標のログや、私が知っている情報はすべてお渡しいたします。

エステル:
ぐぬぅっ……そうですか……。
……それでは、また日を改めて お茶でも飲みながら ……

悠美:
議長ぉ~、行きますよ!

來奈:
ねぇ……咲夜……。
悠名が意識を取り戻したら……やっぱり…… わたしとの恋人関係は終わり…だよね……?

咲夜:
はっ? 何でそうなるんですか?

來奈:
だって……ソフィアが言った通り、咲夜の姫は悠名 でしょ?
咲夜は悠名に仕える 守護騎士 だし。
私は悠名がいない間の、ココロの隙間に入り込んだだけの "代わり" だし……。

咲夜:
!! 私は…お嬢様をそんな風に思ってませんから!!

來奈:
でも……悠名が戻ってきたら、元の関係に戻すんでしょ?

咲夜:
そ…そうなるかは 分かりません から。
なんせ、今の私の 身体 は、悠名が知っている 大人の男の咲夜 ではなくて……
お嬢様と同じ歳の女の子の咲夜 ですし……。

來奈:
あのね、こないだも思ったけど……
女は、容姿や声といった表面的なものじゃなくて、中身で惚れるの。
咲夜の 外見 や 表の性格 が 男 でも 女 でも、本来の咲夜の中身は変わらない でしょ?
悠名だって、中身の咲夜に惚れているんだから。
だから悠名も、女の私と変わらないと思うよ

咲夜:
………

悠名が戻ってきても……
お嬢様と元の関係に戻るとか、考えられません。
悠名を失って、ボロボロだった私を 献身的に支えてくれた ……
お嬢様のことを、愛しています。
……でも、悠名のことも 愛してるし……
でも……二人同時に付き合うなんて…

來奈:
ほぉ?
つまり、咲夜がハーレムを築いて、悠名と私を妾として囲いたいと……?

咲夜:
い、いやいや!!
断じて! ハーレムなんて、そんな 大それた考えは……!!

來奈:
でも、「悠名も私も付き合う」 って……
それ、ハーレム だよね?
それも、結婚しないんだし。
一人だけなら恋人、二人同時なら妾……もしくは愛人?

咲夜:
お、お嬢様を 妾 とか 愛人 とか……!
何を言い出してるんですかぁ!?

來奈:
でも、咲夜はそうしたいんでしょ?
悠名も、私も……どっちも付き合いたい。

咲夜:
ひ、ひぃぃぃぃ!!

來奈:
……ハーレム、認めましょう。

咲夜:
えっ!?

私は 咲夜の妾 でいいよ。
悠名なら、咲夜の言うことは何でも聞くだろうし。
た・だ・し! 条件がある。

咲夜:
条件……?

來奈:
「咲夜の妾は、平等に相手にすること。」

それと、

「私を慕うメイドで、深い関係になりたい子がいれば、咲夜も平等に愛すること。」

つまり……

「咲夜は、そのメイドとも関係を持つ義務を背負う。」

要するに――

「私と咲夜と深い関係になりたいメイドは、私と咲夜の共有とする。」

咲夜:
……お嬢様が言っている意味が分かりませんけど!?



その19 へ続く