Ring of Fortune 第二話 その20

 
ソフィア:
悠名の 脳波に外部から干渉し、ボイベーに基本パターン命令を出させていた制御システムの影響が、悠名自身に及んでいないかのチェックに時間がかかってたけど……。
結果として、一部「ボイベー」として行動していた時の記憶を除けば、他への影響はなし。
つまり、問題はないってこと。

ソフィア:
それと、長期間カプセルに閉じ込められていて身体を動かしていなかったから……。

特殊生命保護溶液を使っていたとはいえ、筋肉や神経系、反復運動記憶の活性化処置 が必要だったけど、すでに終了しているよ。

來奈:
じゃあ、もう目を覚ませばすぐに動けるってこと?

ソフィア:
そう。 問題はないはずだけど……数日は、ここで経過観察するつもり。

ノーラ:
ソフィアがそう言うなら、心配ないね。
はふぅ~……安心した……。

ソニア:
ねえ、ノーラって ドクター・ソフィアと面識あるの?

ノーラ:
うん。私が 月空のお屋敷でお世話になってた時に、ソフィアが來奈お嬢様のところに泊まりがけで遊びに来てて、仲良くなったの。

來奈:
ソフィアは、大学の研究室の長期休暇の時は、うちのお屋敷で過ごすのが普通だったからね。

ソニア:
大学の研究室……?
でも、ノーラが ご主人様のお屋敷にいたのって、かなり前の話ですよね?

ソフィア:
今、特殊生命保護溶液をゆっくり抜いているところ……。
これが終われば、悠名は目を覚ますから。もう少しだけ待って

それで、私さ……。
幼年学校とか全部すっ飛ばして、いきなり大学院に入っちゃったから……。
当然だけど、周りと歳が違いすぎて、友人どころか誰も話しかけてもくれなかった。
だから、幼馴染みの來奈と咲夜、そしてこの悠名だけが、当時の唯一の友達だったの。
それで……長期休みになると、カナダの來奈のお屋敷に逃げ込んでたんだよね。

ノーラ:
性格はフレンドリーなんですけどね。
私とも、すぐに 遊びトモダチ になったし。

ソフィア:
今の保全機関や、ロンゴミリアドのバイオメイド保護活動に積極的に協力している、若き天才バイオメイド博士にも……そんな悩みがあったとは……。

咲夜:
そうでしたね、ソフィアお嬢様。
懐かしいです。

ソフィア:
お嬢様つけるな!
呼び捨てで言えって、いつも言ってるでしょ!
このイジワル執事!

他:
くすくすっ♪

ソフィア:
それで~、咲夜「ちゃん」。
アンナと私が共同開発した、史上初のデュアルニューロチップ式「咲夜の完成形」の素体……どうかな?

咲夜:
えっ……? 共同開発……? ……完成形……?

ソフィア:
容姿は、悠名と來奈のお相手としての理想の女の子になっているはずなんだけど?

來奈:
なるほど……。
最初から私と悠名の女性の好みで調整されてる、と……。
なるほど……私の好みなら、当然……。

ノーラ・ソニア:
………(唖然)

咲夜:
ソフィアお嬢!!
オレが女になったのは、貴様のせいか!!
さっさと元の身体を再生して、オレを男に戻せ!!

來奈:
……咲夜が「オレ」って言うの、久々に聞いた。

ノーラ:
私は初めて聞きました。

ソニア:
咲夜って、メイドでも執事でもない時は、本当はこんな感じなんですね……

ソフィア:
無理!
アンナから説明受けてないの?
今の技術じゃ、女型の素体で実現するのが限界なの。
それに、元の素体はあと数か月でテロメアが暴走して破綻してたし……。
死んだパパもかなり研究してたみたいだけど、結局頓挫したしね。

ソフィア:
ということで、将来的に男型の咲夜の素体を開発するためにも、研究対象としてデータを取らせてね。

ノーラ:
……研究対象……。

ソニア:
……人体実験……。

ソフィア:
それに、男チップで構成された意識体が、女脳の影響でどれくらい変化するのか とか、興味深いテーマがたくさんあるじゃない?

ほら、意識体の女性化とか。

身体と意識、心は不可分 だからね。

來奈:
身だけじゃなく、心も女の子に……

咲夜:
……(真っ青)

ソフィア:
それに、この研究のこともあるし……。
バイオメイド回収の処置を担当する保全機関とロンゴミリアドの本拠地が、日本のここになったから、來奈のクラブが近くて都合がいいのよね。
だから、しばらくお世話になるわ! よろしく!

來奈:
……やっぱり、そうなるよね。

悠名:
うぅ……ん……。

なんか……とても騒がしい……。

悠名:
……ガラス?

咲夜:
悠名!!

來奈:
……良かった……。
本当に、良かったよ……。

ソフィア:
悠名、おはよう。
今ポッドを開けるから、ちょっとそのまま動かないでね。

悠名:
……ソフィア?


その21 へ続く