Shell moon のえんぱいあな日々 第五話 borderland その1

 
フランソア:
…ご主人様まだ?

イリーシャ:
もうさっさとぶっ放して帰りましょうよ。

テミス:
お二人共、落ち着きましょう、ねっ?

瑠莉:
それがですね──
米国のケーブルニュース局の撮影クルーが、再三の退避勧告を無視して、
いまだ反応範囲内で撮影を続けているらしいのです。
只今、ジャンヌ少将がグリーンサーヴァントのヘリ部隊を直率して回収に向かっておりますので……もう暫し、ご辛抱を。

フランソア:
はぁっ!?
……ちょっと待ってよ、戦争ってピクニックじゃないんだけど。
バスターランチャー、発射に賛成──多数決取ろ? 今すぐ撃っちゃおう。

イリーシャ:
賛成ー! 撃とう撃とう。
ね、イーリスもそう思うでしょ?

イーリス:(ハッチがゆっくり開閉)
ぐぅおぉぉん……♪

イリーシャ:
ほら、イーリスも発射準備完了だって!

テミス:
それ、どう見てもイリーシャが動かしてるだけだよね……?
ジャンヌ閣下が現場対応中なんだから、もうちょっと待って。
それに──あの局、世界的に影響力あるんですよ?
間違って巻き込んだら、後がめっちゃ面倒ですからね!

瑠莉:
だから、ちょっとは待ちなさいってば!
ここで世界世論を敵に回して、あとでどうするつもりなの?

フランソア:
ぐ、ぐぬぅ……!
戦争に「世論」なんて持ち込まない……
そんなの気にしてたら、勝てる戦も勝てなくなるっ!

テミス:
いえ、そこは気にしてください。
……スプロールGRID連合にも波及しかねませんので。

ガヤガヤ♪

スリエル:
リフレクターフィールド張ってるとはいえ……
さすが、ご主人様たち。余裕あるというか、なんというか。

さっき「戦争はピクニックじゃない」って言ってたわりに、
足投げ出して、ご飯食べながら騒いでる姿は──
……うん、どう見てもピクニック。

……まあ、ツッコんでも面倒だから、やめとこ。

スリエル:
水菜、大丈夫か?
……まあ、どっちにしても──
ご主人様たちが撃てば、これで決まりだ。

水菜:
……うん。
これで、この場所での戦争は終わるんだよね。

スリエル:
ああ。
あくまで「ここでの」戦争は──だけどな。
……すみれ隊長の言ってた通り、一度日本に戻れる。
……里緒菜メイド長にも、また会える。

水菜:
うん……そうだね……

水菜:
……最初は、アフリカのケニア。
それから、今はエジプトのカイロ。

こんなに遠くまで来たのに……
結局、あまり──敵のメイドたちを救うことはできなかった。

ブラックハウンドのメイドたち……
私が、もっと早く動けていれば──
……助けられた命も、あったかもしれないのに。

瑠美奈:
はぁっ!?
ちょ、ちょっと水菜──
なに弱気なこと言ってるのよっ!?

瑠美奈:
この任務に、命がけでアンタに付き合って志願した戦友が隣にいるのよ!?
その前で「こんな遠くまで来たのに」なんて言葉、吐いていいと思ってるの!?

そもそも──
戦場で敵を、こっちの被害ゼロで救うなんて、最初から無理があるのよ!

だからこそ!
「救えなかった」ことじゃなくて──
アンタがいたから「救えた」命に、目を向けなさい!

……それと、スリエルも水菜も、まだ作戦中でしょ!
そこにいる「ご主人様」や「元ご主人様」みたいに、
どんな状況でも即戦闘に入れるようなバケモノと、
私たちは違うんだから!

気を抜かない!反省ッ!!

スリエル・水菜:(無線)
イエス、マム!!

真奈:
……今のって、
ご主人様と瑠莉閣下に、けっこうさらっと酷いこと言ってない?

瑠美奈:
ん? 真奈、なにか文句あるの?

真奈:
いえっ、なんでもありませんっ!
管制員殿ッ!!

瑠莉:
ジャンヌ少将より報告!
TV撮影クルーの回収、および反応範囲外へのヘリ着陸──完了!

全軍、射線上からの退避も完了しました!
……これより、発射準備に移行します!

フランソア:
──来たっ!
ご主人様、イリーシャ! 頭部コックピットへ!
こっちも機動位置に入るよ!

……座席、下げる!

ゴンゴンゴンゴン…!
うぅ~ん♪
(偏向リフレクター・リアクター冷却駆動音)

カパッ!

うぅ~ん♪

イリーシャ:
フェイスマスク、オープン完了。
偏向電離リフレクター・リアクター、最大維持出力で演算中──
一番、二番、臨界点まで……あと10秒。

テミス:
バスターランチャー用制御センサー、全系統正常可動。
エネルギーチャンバー、圧縮加圧確認──良好。
ライフリング回転、開始。

標準照準および周囲空間反応──演算開始。
シアーの解放タイミングは私とイリーシャで制御します。
トリガーは……そちらに。

フランソア:
……了解。

フランソア:
縮退加速型荷電粒子砲──
Folding Buster Launcher!

(間)

Feu !(フゥ!)

SE:
シュウィィイィィィン……ィイインッ!!
(※空間を裂く波動震動音)

ゴガァアアアアアアアアンッ!!

ゴガァアアアアアアアアンッ!!

SE:
ゴガァアアアアアアアアンッ!!


テミス:
レゾナント・フィールドおよびフォールディング・フィールド──消滅。
空間異常、消失を確認。
目標領域──完全原子分解、確認済み。

周囲への空間浸食……確認されず。
被害ゼロ。ミッション、完了です。

フランソア:
……完璧

水菜:
……要塞と……周りの建物が、全部……消えた……。
これで……最小出力……なの?

イリーシャが言ってたよね……
たった、これで……10分の1以下の出力、だって……

スリエル:
……うん、頭では、わかってた……。
でも、イリーシャ……あんた、これ……。

水菜:
これを、何発も撃てるって……
……そんなの……世界そのものが……
文明ごと、消えてなくなるよ……

水菜(小声で):
……敵のメイドの子たちは、洗脳チップを解除されて──
武器を置いて、投降してた。
もう、回収も済んでたのに……

スリエル:
……まだ要塞に残ってたのは──人間。
傭兵たちが「主権」を名乗って、立てこもってただけ……

水菜:
それを……
私たちは──CNNで観てる、
各国の「偉い人たち」への牽制のために……
……吹き飛ばしたんだね。


その2 へ続く