Shell moon のえんぱいあな日々 第四話 UNDER/SHAFT その15
SE:
ガチャッ、バタン、カチャカチャ……!(車両のドアが一斉に開く)
美紗季:
カチューシャ主計小隊副長と聖理愛班長に敬礼!
ノーラ:
超お待ちしておりました! これで勝つるぅ!
聖理愛:
すみれと真理愛の置き土産に手こずって、ちょっと遅れたわ。
でも…ひよっこたちだけで壊滅にならず防げたみたいね。
さ、さっさと片付けましょ。
カチューシャ:
聖理愛──我が部隊のやり方は、“有象無象、区別なく薙ぎ倒す”。
手は抜くなよ。いつも通り、徹底的にいくぞ。
まこ・沙良:
YES, ma’am!(イエス・マム)
仁香:
あの…この方々は?
美紗季:
すみれ隊長のクラブ「カリブルヌス」と、
ロンゴミアド特別機動部隊を支える主計隊の精鋭と、サロン実務の要の皆さんです!
カリブルヌスのサロンでは、オーナーのすみれ隊長と副オーナーの真理愛マネージャーは、
『居るだけで邪魔』との理由で、立ち入り禁止なんですよ。
実際のクラブ運営は、こちらの皆さんとエスコートメイドの方々が全て担ってます。
……まあ、組織ってのは、予算と体制が整えば、オーナーは要らないんですよ。
この方々はその“完璧な証明”なんです!
ノーラ:
つまり──普段の実務において、オーナーや副オーナーは
「飾りにもならない」ってことです。
クラブの性能は100パーセントでます。 偉い人には分らないんです!
咲夜:
……オーナーも副オーナーも、邪魔だから立ち入り禁止……
ソフィア:
……飾りにもならない……
……無価値………
美紗季:
昨日、ソフィアオーナーちゃんが頑張ってくれたおかげで──
予算の確定も、当面の運営方針も、無事に執行段階に入りました!
というわけで…副オーナーちゃんは、しばらく安心してお払い箱で!
ソフィア:
……お、お払い箱……
まみ:
エスコメイド部隊も一緒に来てるから、
任された運営計画、全部こちらで処理しちゃいますね。
それとソフィアさんの車、届いていたので持ってきたよ。
ということで、どこか適当に出かけててください。
そうそう──二、三日くらい戻ってこなくて大丈夫です!
仁香:
……に、二、三日……
ご、ご主人様が……邪魔扱い……!?
カチューシャ:
こんな可愛い専属侍従メイドがいるのに、
お泊まりデートすらしてないなんて──ありえないわ!
そうだ、東京でも行ってきたら?
オーナー用リザーブのお部屋もあるし、ちょうどいいじゃない。
仁香さん、中東ばっかりだったんでしょ?
日本は初めてでしょ? だったら──
ご主人様と二人きりの、お・と・ま・り・デート♡
仁香:
い、いや…っ、その、あの…っ…っ!
ソフィア:
あの…それ、冗談…ですよね?
副オーナーを放り出すとか、本気じゃ──
まみ:
……ソフィアちゃん、うちのすみれ隊長のこと、よく知ってるでしょ?
「運営の邪魔だからクラブ立ち入り禁止」って、月イチで食らってるわよ。
オーナーなんて、「必要な時にいればいい存在」なの。
……それ知ってて、まだ「冗談」だと思う?
ソフィア:
すみれ隊長……
ご主人様って……そういう扱いされる存在なの……?
……ご主人様は……元気で留守がいい……。
美紗季:
ということで──決定!
ソフィアご主人様と仁香の東京デート、大義名分が整いました!
仁香、旅行の準備よろしく。
荷物は軽めでいいよ、現地で調達もできるし♪
ソフィア:
……おい、仁香……ノーラ……
仁香:
ソ、ソフィアメイド長……
えっと……本来は、白山市のEHDENに視察へ行く予定…という流れでは?……
ノーラ:
てへっ♪
ソフィア:
……咲夜。
咲夜:
フッ……
楽しんできたまえよ、ソフィア「お嬢様」。
ソフィア:
このイジワルメイドモドキーーーーーッ!!!
仁香:
ご主人様、ありがとうございます。
あの……さっきまみさんがおっしゃってましたけど、このクルマ、ご主人様のなんですよね?
……すごい目立つというか、えっと……やたらゴツいですよね。
正直に言うと、歩兵機動車にしか見えないんですけど……。
ソフィ:
H1は確かに米軍の多目的四駆が元になってるけど、これはその後のモデル。
……まあ、言いたいことは、わかるわ。
ソフィ:
……私が乗ったらおかしいって、思ったでしょ?
仁香:
い、いえっ! ぜんぜん似合ってますっ……!
ただ……その、ちょっと想像してたのと違うというか……
(小声で)
あっちで乗ってた機動車より、全然揺れないし……
サスペンション、すごく良いんですね。意外と快適です……
ソフィア:
……民生車だからね。
ソフィア:
……私ね、大学院にいた頃、よく子ども扱いされてたの。
どれだけ成果出しても、背が小さいだけで「お嬢ちゃん」って。
だから、最初に買った車がこれだったの。
「これに乗ってたら、誰にもナメられない」って……そう思ったから。
仁香:
……カッコいいです。
すっごく……ソフィアご主人様らしいって、思いました。
ソフィア:
……ふふっ、ありがと。
仁香:
うぅ〜ん……
(でもこれ……ご主人様、足ちゃんと届くのかな……急ブレーキとか……ちょっと心配かも)
ソフィア:
……ふっ、どうせペダルに足届くのかって思ってるでしょ?
仁香:
えっ!? い、いえっ、そんなこと──!
ソフィア
大丈夫。ちゃんと特注仕様で届くようにしてあるから。
仁香:
さすがです、ご主人様。ぬかりないですね。
ソフィア:
……ぬかりがないって言われるの、なんか腹立つ……。
その16 へ続く