Shell moon のえんぱいあな日々 第四話 UNDER/SHAFT その16

 
ルゥナ:
わかりました、その1000機分。ルゥナが払います。即金で
こういう時って、やっぱり米ドル? それとも…カナダドルのほうがいいかな?

エステル:
ルゥナさん…即金、ですの?

來奈:
あの…今、受注が入ってる守人の予備パーツ・特殊仕様・運搬・訓練パックまで全部含めて……総額、米ドル換算で65億ドルを即金ってこと…

由美恵:
ろ、65億ドル…? えっと、日本円で…いくらですか?

エステル:
だいたい9,750億円ほどですわね。

由美恵:
1000機でもろもろ込みって考えると…まあ安いんですけど……
でも、これって東欧の小国の国家予算規模……ですよね?
それを即金って……
え、もしかして現金? ドル札が山積みで届く感じなんですか…?

エステル:
さすがに、その規模のお札は存在しませんわ…。

來奈:
米ドルで構いませんが……それ以前に、この規模の金銭仲介契約の決済とか……いえ、その前に株主の了承が……

ルゥナ:
あ、それは大丈夫です。ルゥナ個人が出すので。

來奈:
……えっ? ルゥナさん、個人で……?

由美恵:
(言葉が出ない)

エステル:
來奈さん、この方は……個人で出せるのですわ。本当に、恐ろしいことに……

ルゥナ:
アリエルさん、ルゥナ出せるよね?
この前、定期の説明受けたときに、すぐ動かせるお金がそれの何倍もあるって言ってたの覚えてるから。

アリエル:
はい。すべて即時運用可能な余剰現金資産の範囲内で対応可能です。
では、そのうえで具体的な契約形態とスキームについてですが――

ルゥナ:
そういうのは、アリエルお姉さんに任せるから……

アリエル:
ご・主・人・様。せめて聞く姿勢だけでも見せてくださいませ。

ルゥナ:
だって、どうせ聞いてもルゥナわかんないし。任せたからね、よろしく〜。

アリエル:
……もう、本当に……まあ、いいです。

アリエル:
まずは基本スキームを確認いたしますね。
当事者1として、各国家の軍部は購入の意思と契約希望を示しますが、支払いは予算編成・議会承認・政令手続きなどで時間を要します。

当事者2として、ルゥナ・デルポール様(個人)が、
→ 月空アームドインダストリーに対して即金で一括支払いを行います。
→ 同時に国家との契約書を「売掛債権(受取債権)」として保持します。

ルゥナ:
あむっ♪ おいし〜い。

アリエル:
当事者3として、月空アームドインダストリー(來奈様)は
→ 受け取った即金を使って、1000機+予備パーツの即時生産・納品を開始。
→ 後日、国家からルゥナ様へ売掛金が一括または分割で支払われます。

ルゥナ様は、「仮決済代行人(Temporary Guarantor)」もしくは「前払融資者(Advance Financer)」という位置づけとなります。

各国家とルゥナ様の間には、「債権譲渡を前提とした仮債務立替契約」を締結することになります。

來奈様の立場から見ると、「実質的な売掛先は国家ですが、支払いはルゥナ様から即金で受け取る」形になります。

エステル:
つまり、各国は議会の承認を待たずして即時配備が可能。
月空アームドインダストリー側も、資金面のリスクをまったく負わずに済むということですわね。

ルゥナさんは「Private Funding Guarantee Agreement」、すなわち「私的資金保証契約」を結ぶということになりますわ。

由美恵:
あの…ご主人様、私…会話の内容がよく分からなくて……。解説してもらえますか?

來奈:
超ざっくり言うとね。
ルゥナさんがデルポール家の個人資産を使って、完全即金の「私的契約」を組んだってこと。
本来は各国が分割で払うはずだったお金を、全部ルゥナさんが「先に」出してる。
で、その分を国家から後で回収する──いわば「前払いバイヤー」みたいな構図。

企業としては即金で資金が入るから、私たちはすぐに全力で生産・輸送・納品に入れる。
そして各政府は、納品さえされれば議会の承認を待たずに即時配備ができる……
つまりね──これはもう、国家予算を超えた規模の「個人取引」ってこと。

由美恵:
はぁ……(呆然)

來奈:
でも……普通、こういうのって企業でも個人でも利益を出すことが前提なんだけど……
いや、違う。もしかして……目的が……

由美恵:
ご、ご主人様……?

アリエル:
そうなります。ですので、エステル議長には…

エスエル:
わたくしの出番ですわね。国家が万が一、支払い不能となった際のリスクヘッジ──保険ですわね。

ルゥナ:
シュークリーム、美味しかったぁ♪

アリエル:
……うっ。 ごほん。 さすがに話が早くて助かります。

エステル:
ロイズの再保険を、我がフォーシスターズが受けましょう。
G7諸国が相手で、支払いも各国分散されておりますもの。
リスクは相対的に低く、保険料率も抑えられますわ。──お引き受けいたします。

アリエル:
ありがとうございます、議長。

來奈:
あの…一部の、ちょっと我儘な国が「リースにしてくれ」って言ってるんですが…

エステル:
もちろんですわ。今アリエルさんと確認した契約は、最初から「リース契約を前提とした準備契約」でございます。

來奈:
やっぱり…最初から、そういう方向で組まれてたんですね…

由美恵:
リースって…アーマーメイドを? あれ戦術兵器ですよね? 場合によっては大量破壊兵器になりえるのに…!

エステル:
だからこそ、なのですわ。

ルゥナ:
由美恵ちゃん、ルゥナが考えたのは…新しい安全保障の形かな? そのためのこれは布石? っていうの? 未来を買った取引! ちょっとカッコつけちゃった♪

アリエル:
來奈さん、今見積もりにあった金額の合計を、そちらの指定口座に全額送金いたしました。ご確認をお願いしますわ。


その16 へ続く