Shell moon のえんぱいあな日々 第四話 UNDER/SHAFT その7

 
梨音に会釈をするメイド

梨音:
(見回ってみたけど……危険物の設置もできないように、事前に全部メイドが張り付いてる。もう、やることなんてないじゃない)

梨音:
(この会議場ブロック、入り口ゲートは一つに絞られてて、オーナーでさえ監視対象。控室には警備メイドが常駐。…まさに、完璧)

梨音:
(完璧なのは、いいんだけど──
梨音がやること、無いじゃない
お店のことは向日葵たち、スプロール関係は幸と梨々衣、新人研修は梨乃と梨緒。
梨音が動くまでもない

何かあったときの“抑止力”として待機してろ、って言われたけど……それって結局──
……梨音だけ、抜け者)

梨音:
(すみれ先輩について行きたかったな……まあ、そういうわけにもいかないけど
あの人は、戦ってる。“戦ってる”って感じがする
……わかってるよ?
“ここにいること”が最善で、確実で、梨音の“戦い”なんだってことくらい
ただ座ってるだけ。なにかが起きたら動く。それまで、透明な空気みたいにそこにいるだけ。

そんなの、他のメイドにすらできる。 梨音である必要なんて、どこにもない)

梨音:
(……寂しい。
すみれ先輩に対してのミーナみたいに、梨音にも“梨音のためだけの侍従メイド”……とか、取ってもいいのかな…。
でも……そんなの、梨音には何させたらいいかわかんないし。
一緒にいても……遊ぶの、下手だし。気を遣わせるだけ

──梨音が、つまんない人間だから)

SE:
パタッ!パタッ!パタッ!パタッ!(足音)

梨音:
カッ!(何かを察知してそっちを向く)

幼いメイド:
ひぃぎゃあ!

すぽ~ん! 盛大にすっ転んだ幼いメイドが持っていたプラステックバインダーが手からすっぽ抜けて飛ぶ!

梨音:
えっ?

ぐいっ! パシッ!

梨音が凄まじい速さで飛んできた幼いメイドを抱え込み、飛んだバインダーを掴む。

何が起きたか理解できない幼いメイド

梨音;
キミ、怪我は無い? 

幼いメイド:
ぁ……あの……はいっ……! だ、大丈夫です、どこも痛くないです……っ

梨音:
それは良かった。
でもね──急いでるからって、焦って走り回ると危ないよ?
自分が怪我するだけじゃなくて、他の人まで巻き込んじゃうかもしれない。

幼いメイド:
うん……っ しゅ、しゅいますしぇん……ごめんなさいっ!

梨緒:
はい。これ、お仕事で大事なものなんでしょ?

幼いメイド:
うん……。これをオーナーさんに届けるように言われて……戻らなきゃいけなかったんだけど……。
でも、迷子になっちゃって、時間もどんどん過ぎて……焦っちゃって、キョロキョロしながら走ってたら……。
──ごめんなさいっ、お姉ちゃん、怪我してない?!

梨音:
うん、大丈夫。全然、平気だよ。
……そっか、迷子になっちゃったんだね。ここ、ちょっと入り組んでるし。
で、その資料……ご主人様に言われて、オーナーさんに届けに行く途中だったの?

幼いメイド:
ご主人様……? ううん、いないの。
今はオーナーさんに、事務局からこの書類を取ってくるように言われて……その帰り道。
でも迷子になっちゃって、戻れなくて……

梨芽はね、お試しメイドなの。
……スーパーの試食品、みたいな……食べて、美味しかったら正式に買ってくれるって──そんな感じ?

梨音:
……試食して、美味しかったら「買う」? ほうぅ…
ちょっと、そのオーナー……名前、聞いてもいい?
──ほら、控室まで連れていかないといけないでしょ。

幼いメイド:
うんっ。今は、保坂オーナー──良二オーナーさんに“お試し”してもらってるの。

梨音:
……良二お兄ちゃん……?

梨音:
そうだ──名前、教えて。
私は梨音。果物の“梨”に、音楽の“音”で「りおん」って読むの。

梨芽:
梨芽です。果物の“梨”に、木の芽の“芽”で「りめ」って読みます。

梨音:
うん、梨芽ね。
じゃあ──今、お試しをしてるそのオーナーさんのところまで、一緒に行こうか。

梨芽:
うんっ! 梨音お姉ちゃん、よろしくお願いします!

梨音:
ふふ……(そのあとで──良二お兄ちゃんが無事でいられるとは限らないけど)
(こんな子を“試食して、美味しかったら買う”……? ──さて、どうしてやろうか)

その8 へ続く